PR

識者3人が「ビジネスアジリティマニフェスト」を発表した。ビジネスとITの連携支援で著名なコンサルタントたちだ。組織が変化に即応するための原則をまとめあげた。

 あなたが所属する組織はパッケージやクラウドサービスを含め、相当量のソフトウエアを保有ないし利用しているだろう。そのソフト群について次の質問をされたらどう答えるだろうか。

 「柔軟性があるか」「統合されているか」「再利用可能か」「相互運用性があるか」「セキュリティは万全か」「ビジネス戦略と整合しているか」「期待に応えているか」

 一連の問いを発したのは『ビジネスアジリティマニフェスト』の起草者3人である。「我々は今何十億行というコードを保有している」と述べたうえで3人は上記の問いを繰り返し、すべてに「ノー」と言い切っている。

 3人はロジャー・バールトン氏、ロナルド・G・ロス氏、ジョン・A・ザックマン氏だ。バールトン氏はビジネス・プロセス・マネジメント(BPM)、ロス氏はビジネス・ルール・マネジメント(BRM)、ザックマン氏はエンタープライズアーキテクチャ(EA)の第一人者である。3人は2017年11月、ビジネスにアジリティをもたらすための原則をまとめたマニフェストを発表した。

 2018年2月1日号の本欄に次のように書いた。「ビジネスアジリティもしくはビジネスアジャイルという言葉がある。事業や業務を俊敏に進めること、あるいはその方法を指す。(中略)欧米で開かれたビジネスアナリシスやプロジェクトマネジメントの会合に参加するとビジネスアジリティに関する発表や討議が活発にされていた」。

 発表の1つがこのマニフェストだ。先頃日本語に翻訳されたのでぜひ読んでいただきたい。Business Agility Manifestoというサイトに原文および各国語の訳文が公開されている。

ビジネスとITを結び付ける

 起草者3人の専門領域であるBPM、BRM、EAはいずれもビジネスとテクノロジーを結び付ける取り組みである。テクノロジーを使ってビジネスの価値を増すには、ビジネス全体の構造を把握し改善計画を立て(EA)、業務を改善し(BPM)、業務規則の明確化と修正(BRM)を繰り返す必要がある。この取り組みは経営者、事業部門の担当者といったビジネス側と、情報システム部門やIT企業などテクノロジー側が協力して進めなければならない。

 だがビジネス側は目の前の業務遂行に、テクノロジー側はソフト開発や製品選択に気をとられてしまう。業務改善の取り組みが乏しいところにアジャイル開発を導入したとしてもうまくいかない。マニフェストにある通り、「ソフトウエアを高速に開発するだけでは存続と成長のために十分ではない」。

見えないものを見えるようにする

 マニフェストの主張は本欄が述べてきたことと同じである。8月2日号、8月16日号に次の主旨を書いた。

  • 企業や事業の戦略、現場の業務とそこにおける知恵や判断、判断に使われるデータ、データを提供する情報システム、いずれも見えにくいが、情報システムの担い手は経営者や事業部門と対話しつつ、見えるようにしていく
  • そのためには、これまで実績を上げてきたコンセプト立案、モデルやアーキテクチャの設計といった仕組みの全体像をシステムとして把握する考え方や手法を踏襲すればよい

 マニフェストには起草者の主張をまとめた図が付いている。上段にある「ビジネス戦略」とそれを実行する「ビジネス能力」によって組織は「ビジネス価値」を提供でき、法規制などを順守する(「ビジネスインテグリティ」)。

図 ビジネスアジリティマニフェストのコア・コンセプトモデル・ダイアグラム
図 ビジネスアジリティマニフェストのコア・コンセプトモデル・ダイアグラム
何がビジネスに価値をもたらすのか
[画像のクリックで拡大表示]

 価値を生む業務活動が「バリュー・チェーン」であり、そこでは様々な「ビジネス知識(業務知識)」が活用される。情報システム(ソフト)はチェーンが円滑に動くように情報(ビジネス知識を含む)を提供する。情報システムの設計前に「ビジネス知識」を見えるようにする必要があるので、明示され、利用しやすい形式の「ビジネス知識ベース」を用意する。

 ビジネス知識ベースは「バリュー・チェーン・モデル」と「コンセプトモデル」を含む。後者は「標準用語とビジネス定義によって表されるビジネスコンセプトの集まりおよびそれらの論理的な関連」を指す。

 抽象的な説明が続いたが、起草者3人は万人が読める文書にするため、意識的に抽象度を高めている。バリューチェーンをビジネスプロセス、ビジネス知識をビネスルール、コンセプトモデルをビジネスアーキテクチャと書いてよいはずだが、BPM、BRM、EAの用語はあえて避けている。

 マニフェストが求めるモデルを実際にどう用意するか、やり方は組織が自分で決めればよいからだ。BPMやBRMに取り組み、プロセスやルールのモデルがすでにあるならそれを使えばよいし、別の手法で用意してもよい。例えば本欄で紹介した概念データモデルはコンセプトモデルに当たる。

 テクノロジー側の担い手の方々は自分が担当している仕事が図のどこにどう関係するのか、モデルに相当する何かを用意できているのかを考えてみてはいかがだろう。

谷島 宣之(やじま・のぶゆき)
日経BP総研 上席研究員
1985年電気通信大学情報数理工学科修士課程修了、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社、日経コンピュータ編集部に配属。日経ウォッチャーIBM版、日経ビズテック、日経ビジネスオンラインの記者、編集委員を経て、2009年から日経コンピュータ編集長。2013年から日経BPイノベーションICT研究所上席研究員。2015年から現職。