BNPL(バイ・ナウ・ペイ・レーター)サービス会社の高額買収が相次ぐ。若者が望む、「商品を見てから支払う」購買を実現できる点が評価されている。そうした若者に自社として何をどう提供するかがすべての企業に問われる。
本連載の題名にある「対話」とは経営者と情報システム責任者のそれを想定している。「なぜこうなるのか。この出来事の本質は何か」「当社に関係するのか。どう動けばいいのか」と疑問を抱いた経営者にシステム責任者が答えられれば経営との距離が近づく。
2021年9月8日付日本経済新聞夕刊の一面に格好の話題が掲載された。米ペイパルが後払いサービスのペイディを3000億円で買収するというニュースである。記事の後半には米スクエアが8月にオーストラリアの後払いサービス大手アフターペイを290億ドルで買収すると発表した件も書かれている。日本円だと3兆2000億円であり、しかもこの買収は株式市場から評価されスクエアの株価は急騰した。
経営者が知りたい2点への回答を先に書く。将来を担う若者が望む、新たな購買体験を後払いサービスは提供できるとみられており企業価値が高くなる。日本においても消費者の世代交代が進んでいくわけで業種を問わずあらゆる企業や団体が対策を考え、それを支える仕組みと情報システムを用意していかなければならない。
「バイ・ナウ」が重要
「後払いサービスは『バイ・ナウ・ペイ・レーター(BNPL)』と呼ばれ、欧米を中心に利用が急拡大している。手数料なしの分割支払いサービスが若年層をひき付ける」。日経夕刊はこう報じた。「後払いサービス」はPLだけを訳しており「すぐ買える」(BN)ことが最大の魅力だという点が見えにくい。
BNPLはアマゾン・ドット・コムを筆頭とするEC(電子商取引)サービスを当たり前のように使っている、いわゆるデジタルネーティブあるいはZ世代に向けた新サービスとみてよい。「即座の満足を期待する」世代と評されておりインターネット上で商品を探して欲しいと思うものに出会えたら直ちに購買に入る。まさにBNである。
BNPLサービスを使う消費者は商品が届き、中身を確認、納得してから支払う。支払いは「4回分割」「月払い」などから選べる。BNPL自体がインターネットサービスなのでECとシームレスにつながり消費者からすると一貫した購買体験になる。BNPL事業者は消費者とEC事業者の間に入り、事業者に手数料を引いた決済金額を支払う。
BNPLは消費者の支払い行動によって使える額が増えるという、一種の信頼経済を具現化している。当初は少額の購買から始め、きちんと返済していけばより高額の利用が可能になっていく。BNPL事業者は利用履歴を取りデータに基づいて決済額を調整する。勤務先や年収、住んでいる地域などに一切関係なく、自らの行動によって使える額が決まる仕組みはフェアであり、こうした特徴をZ世代は好む。
「即座の満足」という姿勢からすると届いた商品を見たとき満足できなかったらどうするか。即座に返品することになる。こうした需要に応えるためにBNPL事業者と返品サービス事業者が組む動きが加速している。
BNPL大手の米アファームは返品サービスの米リターンリーを2021年4月に買収した。直後の8月末、米アマゾンはアファームと提携、アマゾンのサービスにアファームのBNPLを組み込むと発表、EC業界で話題になった。ペイディを買収したペイパルはそれに先立つ2021年5月、返品サービスの米ハッピーリターンズを買収した。
矢継ぎ早の提携や買収から見えてくるのはECサービスにおける、欲しいと思った瞬間に注文し、商品を即座に得て満足したら支払いを始め、期待していたものと違っていたら返品する、といった購買体験である。
BNPL事業者と同様に、返品サービス事業者も利用者とEC事業者の間に入る。両者はEC事業者の支払い回収や返品作業といった業務の負荷を軽くする。例えばリターンリーは消費者が返品を決めた瞬間、それを受け付け、商品が戻される前に消費者へ一種の返金をする。お金ではなく商品を買ったECサイトで購入できるポイントで相当額を返す。消費者からすれば返品を決めた直後にポイントを受け取れ、それを使って代替品をすぐ発注できる。EC事業者は返品した消費者が別のECサイトに移る事態を回避できる。