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新型コロナウイルスとAI(人工知能)は雇用や人材育成に大きく影響する。米アマゾン・ドット・コムは現場の職務、採用方法、安全対策を変え続ける。すべての組織と人は「新しい仕事」に向き合わざるを得ない。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は雇用に大きな影響を与えた。事業を再開できず人員を減らした企業があれば人手不足の企業もある。雇用についてAIが人の仕事を奪うと指摘されてきたが結論を見極める前にCOVID-19が広まり、一方でAIは用途を広げている。

 新型コロナとAIの影響で「新しい仕事」が生まれる。仕事には働き方はもちろん、働く意味や取り組む姿勢、求人や求職の方法、雇用機会、人材育成やキャリア形成まで含む。新型コロナが強いる非接触・非対面の業務、AIによる自動化、人とAIの協調による高度化が現実になり仕事のすべてが変わっていく。

 働き方の変化は前回取り上げたので今回は雇用や人材育成に焦点を当てる。新型コロナの脅威下でもAIと協調し、使いこなす力を身に付ければ働く機会が増える。逆に「新しい仕事」への移行がうまくいかないと失業率が高まり社会不安を大きくしかねない。

100万人を雇用するアマゾン

 新しい仕事が示す未来を考えるための事例として米アマゾン・ドット・コムを取り上げる。2020年9月14日、同社は米国とカナダの物流拠点で10万人を採用すると発表、雇用総数は100万人を超えることになる。テクノロジー企業として世界最大規模の雇用主であり米国の全業種を見ても小売最大手の米ウォルマートに次ぐ。

 アマゾンが求める職務の全体は「Amazon Jobs」という専用サイトで見られる。倉庫業務の担当者、顧客サポートやバックオフィスのスタッフ、AIをはじめ各種のエンジニアまで様々な職務が掲載されている。就労形態はフルタイム、パートタイム、季節就業など。世界中の求人情報を閲覧でき、どの国からでも世界各国の求人に応募できる。「バーチャルロケーション」と呼ぶリモートワークの職種もある。顧客サポートやエンジニアなどリモートワークになじみやすい職種に加え、輸送や配送関連のマネジャーや拠点開設の準備担当なども含まれる。

 Amazon Jobsには募集業務の内容と位置付け、求めるスキルや経験までが記載されている。求人情報を介して各役割を担う人の存在が見え、集まった人たちがチームとして動き、評価を受ける姿が浮かび上がる。実務の協調相手にはAIやロボットも入る。物流倉庫内のきめ細かなピッキングは人手でこなし、倉庫内のモノの移動はロボットが担い、人とロボット(AI)が協調するように業務が設計されている。

 Amazon Jobsには製品開発にAIを適用するエンジニア、AIを利用する企業へのコンサルタント、倉庫業務に特化したAIスペシャリストといった記述が並ぶ。AIに対する取り組みの規模、具体性、幅広さが見て取れる。AIとの関わりで何をどう担い、体験できるのかが明確で、これが貴重なAI人材を引き付けるカギになる。

 注目すべきは求人情報にアマゾンが向かおうとしている姿やなすべきことを明記し、そのために必要となる職務を提示していることだ。働く側に事業全体の方向性と業務内容に関する情報を渡し、選ばせる。並行してリモートワークを含む柔軟な就業形態を用意し、多様な人材を受け入れる。職務を理解し、主体的にその仕事を求める優れた人材を選び、チームとして活動してもらう。こうした経緯で人材が集まるので前回本欄で述べた「場所、状況、制約を超え、多様な人が楽しく創造的に協業し、突発事態に柔軟に対処し、打開していく」方向へ進んでいける。

 大量の雇用を創出しているものの、アマゾンの労働環境については批判がついてまわった。直近でも従業員から「COVID-19と雇用継続のリスクから我々を十分に守っていなかった」という声が上がった。これを受けてアマゾンは従業員、候補者、顧客、コミュニティーの安全を促進するプロセスを用意し、それらを実践していると求人ページなどに記載した。物流倉庫の活動域をAR(拡張現実)でガイドする「ディスタンス・アシスタンス」などITを生かした解決策も打ち出している。