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「リスキリング(学び直し)」が話題だが情報システム部門は蚊帳の外である。IT関連の研修を増やすのはよいが、実践の場があってこそスキルは身に付く。仕事とデータのつながりを把握しているシステム部門が場を用意すべきだ。

 「人工知能(AI)を使いこなせる人材をリスキリングで半年以上かけて育てる主要企業」は「137社と全体の16.9%にのぼった」。日本経済新聞は2022年11月4日付の1面でこう報じた(17~21面に関連記事を掲載)。「上場企業と有力非上場企業の計813社から有効回答を得た」調査結果の報告である。回答全体の61.5%が「AIを自社の業務やデータ分析で活用している」と答えたが、64.3%が「AIスペシャリストが不在」とした。

 記事の骨子は、AIやIoT(インターネット・オブ・シングズ)でイノベーションを起こすにはリスキリングによる高度専門人材の育成が不可欠、というものである。高度専門人材としてAIスペシャリストのほか、データサイエンティストが挙げられている。

 人材の育成に企業が力を入れるのは結構だが、記事を読んで気付くのはIT(情報技術)や情報システムという言葉がほとんど出てこないことである。情報システム部門あるいはIT部門に至っては全く触れられていない。

 1カ所だけITへの言及があるが「ITの専門家が入るのではなく(DXの取り組みを通じて)自ら解決する」という一文になっている。AIやIoT、DX(デジタルトランスフォーメーション)を担う“デジタル人材”の育成ないし調達が急務、それさえできればITの専門家は不在でもよい、と読めてしまう。

求められる3つの「実践の場」

 インターネット上の記事や発言においても「DXを推進できる新組織をつくるべきだ。古いITのお守りをしているシステム部門にDXは無理」といった主張を見かける。DXが事業の変革を指すのであればシステム部門のこれまでの守備範囲を超えるので新組織が必要かもしれない。とはいえDXにはPythonが必須、COBOLを使うシステム部門は時代遅れ、といっためちゃくちゃな意見もある。

 本稿で主張したいのは、イノベーションを起こすデジタル人材なるものを育てるリスキリングをするのであれば実践の場が不可欠で、それをシステム部門が提供すべきだ、ということである。現状のシステム部門が担えないならシステム部員をまずリスキリングしなければならない。具体的には次の3点を満たす場が求められる。

データマネジメントの場:社員をAIスペシャリストやデータサイエンティストにするための研修を実施したら、受講者は学んだことを実践しなければならない。データがどこにあるのか探し、利用できるように整え、何らかの処理を施す。テストしたり、利用者を教育したり、新たに生まれるデータを管理したりする。このような「仕事にデータを生かす」実務の場はシステム部門または情報システム関連会社にある。

プロジェクトマネジメントの場:デジタル人材はスペシャリストであるが単独で行動するわけではなく、何らかのプロジェクトに参加する。プロジェクトマネジャーにならないとしても、プロジェクトマネジメント(PM)は経験しておいたほうがよい。PMとは、目標を定め、仕事の範囲(スコープ)を決め、担当するチームメンバーと対話し、利害関係者と交渉し、期限通りに所定の予算内で狙った品質の成果物をつくり上げることを指す。一通りの経験ができる場がシステム部門にあるはずだ。

イノベーションマネジメントの場:事業を変革する、新事業を創出する、といった場合、最も重要なのはイノベーションの構想を得ることである。それには社会や属する産業界あるいは顧客の動きや変化を大きくとらえなければならない。同時に社内の各部門、さらに外部の協力会社がどのように連携して現業をこなしているのかを把握する。システム部門は本来、事業をデータとしてとらえ、何がどうつながっているのかを知り得る立場にある。