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日本における企業情報システムの歴史は60年程度だがあまり知られていない。過去の知恵や経験が引き継がれず技術が新しくなっても似た失敗を繰り返す。多岐にわたる情報システムの仕事の中から不変の箇所を見極める必要がある。

 企業内の業務担当者がコンピューターを学び、情報システムを設計、プログラミングし、運用を手掛けた。業務アプリケーションはもちろん、メーカーが提供するデータベース/データ通信など基盤ソフトウエアに詳しい担当者もおりメーカーにあれこれ注文を付けて製品を改良させていた。

 これは1970年代から1980年代にかけての大手日本企業の姿である。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれたころ情報システムの領域においても日本は世界で先頭を走っていた。

 こう書いていて「本当にあったことなのだが」とつぶやきたくなる。若手の方からするとにわかに信じられないかもしれない。先日、あるITスタートアップの若手創業者と話をしたところ彼は冒頭の状況を知らなかった。彼が仕事を始めたときに日本は「IT後進国・外注依存」になっていたからだ。

 コンピューターが企業に入り始めてざっと60年、歴史においては一瞬と言ってよいほど短期間だが、それにもかかわらずその間の経験や得られた知恵には有効なものがある(本連載151回『電子計算機が輝いていた50年前、当時生まれた知恵は今でも有効』参照)。ところがそれらは引き継がれておらず歴史など無いに等しい。知見の蓄積が無いため常に素手で情報システムの開発や運用に取り組むことになり従前とほぼ同じ苦労と失敗が繰り返される。

全体と構成要素を把握できず

 こうなった原因は複雑な情報システムの全体像を捉えきれていなかったからではないか。全体を把握するには構成要素に加え、時間の経過にも注意しないといけない。企業情報システムの構成要素は経営方針から始まり、業務とその流れ、人の活動、活動を支援する情報、情報を集めて作り出すアプリケーション、コンピューターや通信ネットワークなど多岐にわたる。しかも時間がたっても変わらない構成要素と短期に変わる構成要素が混在する。

 前者については過去に学んだことをそのまま使えるはずだが構成要素を混然一体として見ているため、それに気付かず引き継ぎがなされていない。

 本連載で触れてきた情報システムの構成要素を表に挙げてみた。まず、ビジネス(事業)におけるビジョンやコンセプトを描く(デザイン)ことの大事をたびたび強調した。どのようなビジネスにしていきたいのか、ビジネスを通じて社会課題へどう対処するのか、といったことが見えていないと役立つ情報システムを作れない。

表 本連載で取り上げてきた事項の代表例
情報システムの仕事を立体的に捉える
表 本連載で取り上げてきた事項の代表例
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 ビジネスの構造を整理し、情報システムの設計につなげていくために概念データモデリングが有用であり、手島歩三氏(ビジネス情報システム・アーキテクト代表)の提案を10回に分けて紹介した(106回~115回)。概念データモデリングは業務担当者が集まりデータに着目してビジネスの構成要素と関連を描き、あるべき姿を見いだしていく手法であり、伝票などからデータを拾い出していくやり方とは異なる。

 一方、アプリケーションとテクノロジーは最新のものを取り上げてきた。世界のアプリケーションを長年定点観測してきた桑原里恵氏(札幌スパークル)に協力してもらい、これまで41回にわたりスタートアップあるいは米グーグル、米アップルなど超大手の新サービスを見てきた(157回~199回)。テクノロジーについてはITにとどまらず紹介してきた(前号参照)。

 以上の構成要素が複雑につながる情報システムを開発し、維持していくためには、物事の本質を捉えるコンセプチュアルスキルや、プロジェクトマネジメントが必要であり、それらについても繰り返し書いてきた。