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大手IT企業は描いた未来と技術を信じ、他社と組み、長期にわたって挑戦する。イノベーションを成し遂げるカギは根気強さにあるということができる。そうした姿勢をまず理解することがITを利用する側に求められる。

 職業や立場を問わず、年末になるとその年を振り返り、翌年のことを考えたくなるが2020年は悩ましい。新型コロナウイルス感染症の年になり、2021年も同じ問題が続きそうだ。そもそも世界の先行きは不確実で予測できない時代に入ったと言われてきた。

 とはいえこれまでの歳月の中には何らかの連続性がある。画期的なイノベーションも一夜で成し遂げられたわけではない。今回と次回、2020年末に発表され、今後社会へ影響を与える技術を取り上げ、経緯をたどってみる。

 いずれも10年、20年単位の時間をかけ、根気強く培われてきた。IT企業は俊敏さが強調されがちだが、新たな基盤となって社会を変えうる技術を生むイノベーターは骨太の取り組みを長く続けている。自ら描いた未来の姿とそれを支える技術の可能性を信じる覚悟と、他者や他社を理解し実現に向けて組む勇気が根気強さにつながる。

高度な医療研究を民主化

 2020年11月30日、米アルファベット(米グーグルの親会社)傘下の英ディープマインドは同社の「AlphaFold」と呼ぶシステムが、タンパク質の構造変化予測を競うCASP(Critical Assessment of protein Structure Prediction)コンペティションにおいて最高値を出したと発表した。

 AlphaFoldのニューラルネットワークが構造変化の履歴を学習し、可能性のある構造を予測する。感染症の進行や各種の疾病を起こす構造変化を予測できれば、それらを停止ないし修正することにつながる。タンパク質を抽出、結晶化させ構造を解析するには数億円する機器と高度な技術を持つ専門家が必要で構造予測は難題とされてきた。

 2010年創業のディープマインドはチェスや囲碁の取り組みで知られるが、2014年にグーグルに買収されて以来、医療分野に注力している。2019年には急性腎障害の高精度予測で成果を出した。一連の成果は突然のものではなく、10年間の取り組みとそこに参加した医療機関、製薬会社との協力によってもたらされた。「AIによる医療技術の革新」という一貫したテーマがあり、地球上の多くの人に役立つサービスを届けるというグーグルの姿勢に合致している。

 アルファベットは医療企業ベリリー・ライフサイエンシズを保有し、ディープマインドと共に医療の革新に挑んできた。ディープマインドは2018年だけで600億円を超える赤字を出し、批判の声が上がっていたがアルファベットはディープマインドへの投資を続けている。