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2021年は先行きが不透明と言われるが変わらない点もある。ITがもたらした新たな社会基盤の上で物事が動いていくことだ。IT企業は10年、20年をかけて基盤を育ててきている。

 2021年が始まった。これに先立つ2020年の1年間、本欄において業務や事業、産業の変化を引き起こす「新社会基盤」の姿を見てきた。1年前の2020年1月23日号で新たな社会基盤を次のように説明した。

  • 人々はモバイル機器を持ち歩き、インターネットを介してつながっている
  • つながりの上に各種の業務プロセスが乗り、様々な仕事の情報が発生する
  • ICTの仕組み、業務プロセス、仕事の情報が積み重なり、一体となり、新たな社会基盤となる
  • 新社会基盤の上で活動が行われ、情報の収集・分析・発信が繰り返され、産業や事業が創出され、産業融合が起こる

 日経BP総研と札幌スパークルの桑原里恵氏は新社会基盤がもたらす産業と事業の変化を展望する報告書『メガトレンド2020-2029 ICT融合新産業編』をまとめている。

 新社会基盤は一夜にして現れたのではない。使われる技術だけ見ても10年、20年を費やし、根気強い開発を続けてきた。開発側は社会に資する将来像を描き、技術の力を信じ、技術を持つ者を尊重し、必要な相手と組み、技術を育ててきた。前回に続き、2021年以降も社会へ影響を与える技術関連の出来事を紹介する。事例の選定と解説は報告書の共著者、桑原氏による。

オープンなAPIで社会基盤を形成

 2020年12月7日、米フェイスブックはCRM(顧客関係管理)サービスを手掛ける米カスタマーの買収を発表した。傘下の「Instagram」「WhatsApp」「Messenger」といったSNS(交流サイト)におけるCRMを充実させる狙いがある。

 その直後の12月9日、米連邦取引委員会(FTC)はフェイスブックに対する新たな反トラスト法違反訴訟を発表、米インスタグラムと米ワッツアップの買収が違法だったとする判断を示した。20年前の2000年、米マイクロソフトの反トラスト法違反容疑について聞かれた社会生態学者のピーター・ドラッカー氏は「反トラスト法はアメリカの法律家の妄想の産物である。感心したものではない」(『ネクスト・ソサエティ』、上田惇生訳、ダイヤモンド社)と喝破したが歴史は繰り返す。

 カスタマー買収を報じた米テッククランチによるとフェイスブックは「1億7500万のビジネスユーザーを持つ」。ビジネスユーザーとはSNSの「Facebook」を自身のWebサイトのように使い、InstagramやWhatsApp、Messengerで顧客とやり取りする企業や個人事業者を指す。ビジネスユーザーはFacebookと傘下の各種SNSを顧客とつながる基盤として使う。この基盤には電子商取引や物流などビジネスユーザーを補完する各種サービスも連携している。

 Instagram、WhatsAppはいずれも特徴があるSNSだが、ビジネスユーザーとの連携を深めるようになったのはフェイスブックの傘下に入ってからである。フェイスブックは2004年2月に創業し、2012年4月にインスタグラムを、2014年2月にワッツアップを買収した。フェイスブックは各SNSの特徴を生かしつつ、連携を進めてきた。直近では2020年9月、InstagramのダイレクトメッセージとMessengerの機能を連携させると発表。一般利用者はもちろん、InstagramとMessengerの双方で顧客とつながるビジネスユーザーにとっても使い勝手が高まる。

 フェイスブックが社会基盤の一翼を担うようになったのは2008年1月、いち早くAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を開放し、他のサービスと連携しやすくしたことが大きい。サービス事業者はフェイスブックと連携することで自社の利用者により便利な体験を提供できる。実名の利用者が多いFacebookの特徴を生かし、アカウント認証の仕組みも用意した。

 このようにフェイスブックは一貫してオープンな接続を志向してきた。いわゆる「囲い込み」とは異なる動きであり、そのオープン性によって利用者を引き留めてきた。だが、司法省は今回の反トラスト法の訴えの中でAPIの利用を問題にしている。