全3866文字
PR

現実味帯びる成層圏通信

 従来の発想とはかけ離れた“飛び道具”で通信インフラを強じんにする取り組みも進んでいる。

 ソフトバンクが力を入れる「HAPS(High Altitude Platform Station、高高度プラットフォーム)」技術がその1つ。砂漠や山岳部のように通信インフラが未整備のエリア、あるいは広範囲で基地局が停止したエリアのはるか上空に通信機能を備えた無人航空機を飛ばし、独自ネットワークを構築して通信可能にする。

 無人航空機に大面積の太陽パネルやバッテリー、基地局を搭載。温度や気流が比較的安定しており、太陽光発電の妨げとなる雲の影響を受けない成層圏に滞空させ、数カ月から1年にわたり無着陸で飛行させる。専用電波を使う従来の衛星携帯電話と異なり、上空から地表に通常の携帯電話の電波を飛ばすため、通常のスマートフォンをそのまま使えるのが特徴だ。

図 成層圏や地球低軌道(LEO)を利用したモバイル通信システムの例
図 成層圏や地球低軌道(LEO)を利用したモバイル通信システムの例
はるか上空から広域をカバー(写真提供:ソフトバンク、楽天モバイル、欧州エアバス・ディフェンス・アンド・スペース)
[画像のクリックで拡大表示]

 同社の傘下でHAPS事業を担うHAPSモバイルは2020年9月、米国のニューメキシコ州にある飛行場でテストフライトを実施。成層圏に5時間半ほど滞空し、LTE方式による通信試験に成功した。同社は2020年2月に通信事業者や通信機器メーカーなど約30社による業界団体も設立。通信に使用する周波数帯の統一や世界各国における法整備の働きかけを急いでいる。

 ソフトバンクがHAPSを始めたきっかけは、やはり東日本大震災だ。2014年ごろから事業化を検討し始めたが、当時のテクノロジーでは成層圏に長期間滞空して通信サービスを24時間提供できる機材を開発するのが困難だった。ここ数年でバッテリーや太陽光パネルの性能が大きく向上したことから、HAPSモバイルで事業化に動き出した。2021年2月には欧州のエアバスやNTTドコモ、フィンランドのノキアの3社がHAPSの共同研究を実施する覚書を結んでいる。

 楽天も高度600~700キロメートルに浮かぶ衛星を使って通常のスマホと直接通信する「スペースモバイル計画」を進めている。傘下の携帯電話会社、楽天モバイルが2023年の実用化を目指す。その狙いについて楽天モバイルの内田信行執行役員兼技術戦略本部長は「災害時の通信手段を確保できるのに加え、平常時に電波が届きにくいエリアを補完する用途にも使う」と説明する。

 米スペースXや米アマゾン・ドット・コム、英ワンウェブなどは地球低軌道(LEO)を周回する数百~数千台の通信衛星を使ったモバイル通信網の整備を進めている。実現すれば災害に強い通信インフラのあり方が大きく進化しそうだ。