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デジタルツインやシミュレーションが救援や避難を変え始めている。地震や台風など災害による被害の規模を、様々なデータに基づき予測。救援・救助計画を迅速に立案できる他、避難所の“密”回避も可能になる。

 台風による水害によって、○○県では××人の被災者が発生しそうだ。自治体の職員だけでは救援・救助活動に支障が出る恐れがあるので、事前に他の自治体から応援を派遣しよう──。

 日本で間もなく、災害の救援・救助活動が、実際に災害が起きる前から始まるようになる。日本国土をデジタル空間に再現した「デジタルツイン」が災害の規模を事前または発生直後に予測し、最適な救援・救助計画を立案できるようになるからだ。

 デジタルツインの1つが、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の中で開発している避難・緊急活動支援統合システム「CPS4D: Cyber-Physical Synthesis for Disaster Resilience」で、完成は2022年度の予定である。

図 防災科学技術研究所が開発する「SIP4D」と「CPS4D」の概要
図 防災科学技術研究所が開発する「SIP4D」と「CPS4D」の概要
災害用デジタルツインを活用して被災者数などを予測(写真提供:防災科学技術研究所)
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 2011年3月の東日本大震災では、省庁や自治体、民間企業など組織をまたいだ情報共有が不十分で、救援・救助活動に遅れが生じた。「市町村の災害対策本部は電話やファクスを使って情報を収集し、地図に付箋を貼るなど紙で情報を管理していた。そのため他の自治体からやってきた災害派遣医療チーム(DMAT)などの応援部隊が情報を使えず、どこの避難所や病院に向かえばよいのか分からない事態に陥った」。防災科学技術研究所(防災科研)国家レジリエンス研究推進センターでCPS4Dの開発を統括する臼田裕一郎研究統括はそう振り返る。

時系列データでデジタルツイン

 そこで政府は東日本大震災を教訓に、災害に関する情報を共有できるシステムを整備してきた。まず2018年に稼働したのが、省庁や自治体、研究機関や民間企業が所有する災害に関連する情報を共有可能にするシステム「SIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)」だ。SIP4Dによって、大規模災害が発生すると内閣府と防災科研が立ち上げる「災害時情報集約支援チーム(ISUT)」が、災害に関する情報を一元的に把握できるようになった。

 例えば2018年9月の北海道胆振東部地震では、SIP4Dで集約した避難所の避難者数データと携帯電話基地局の途絶状況データとを重ね合わせることで、どの基地局を優先して復旧させるべきか意思決定できるようになった。

 さらに政府は2018年から、SIP4Dで集めた情報を使ったデジタルツインであるCPS4Dの開発を始めた。CPS4Dのポイントは「災害に関するデータの時系列的な変化を把握し、これから何が起きるかシミュレーションによって予測可能になること」(臼田研究統括)。

 例えばCPS4Dによって、台風発生時には降水量の予測から浸水想定地域を割り出し、それに基づいて各自治体における「職員1人当たりの被災者数」を算出できるようになる。この情報を使えば、優先的に応援部隊を派遣すべき自治体がどこか判断可能になる。

 また新型コロナウイルスの感染シミュレーションと、避難所の密度シミュレーションを重ね合わせることで、避難所が“密”にならないような避難計画を立案できるようにもなる見込みだ。