デジタルツインで先行する業種の1つは製造業だ。ダイキン工業、旭化成、サントリーの製造子会社がそれぞれ導入済み。製造工程や設備異常の対応の迅速化に貢献している。
ダイキン工業
製造ラインの遅延予測 ロスを3割強削減
「デジタル技術を活用したプロセス改革によって『止まらない工場』を実現し、ロスを低減させる」――。空調製品を生産するダイキン工業の高山正範テクノロジー・イノベーションセンター生産システム革新グループリーダー主席技師は2020年ごろから本格活用しているデジタルツインシステムの狙いをこう説明する。
ダイキン工業が大阪府に建造した堺製作所 臨海工場では、デジタルツインの機能を備えた新生産管理システムを開発。工場内の製造設備などにセンサーやカメラを取り付け、それらから取得したデータを基に部品の流れや組み立て、塗装、プレスといった工程の状況を逐次、仮想空間に再現している。
新生産管理システムの導入後、着実に効果が高まってきた。高山主席技師は「現場改善や生産技術の向上などの効果も含めて、2021年度は導入直後の2019年度と比べ3割強のロス(停滞によって生じた時間やコスト)を削減できる見込みだ」と話す。
高山主席技師によれば、同工場で製造ラインが停滞する原因には大きく「製造設備の異常」と「作業の遅れ」がある。新システムはこれらの問題にいち早く対応できるよう、製造設備や組み立て作業などの状態を仮想空間に再現し、停滞を事前に予測する。
製造設備の異常予測には、センサーを活用する。製造ラインに必要な切断機や挿入機といった設備から10ミリ秒ごとに電流値やポンプの脈動値などのデータを取得する。データはパブリッククラウドサービスのAmazon Web Services(AWS)上に構築した全社データ基盤に集約。異常予測機能でこれらのデータを分析し、異常が発生しそうとの結果が出たら警告を出す。
新システムは製品を加工している最中のデータも取得し、異常予測に生かす。従来は加工開始時と終了時に電流値などのデータを取得していたが、新システムは加工中のデータも収集する。これにより、「従来は気付きにくかった製造設備の異常を予測できるようになった」(高山主席技師)。
高山主席技師は新システムを開発した際、「製造設備の保全を担当するベテラン技術者の協力が不可欠だった」と話す。ITエンジニアでは、工場のセンサーから得られたデータが、正常なものか、異常なものかを判断するのが難しいからだ。
そこで高山主席技師らはITエンジニアを工場のラインに派遣し、ベテラン技術者とタッグを組ませた。実際に設備から得られる値が正常か、異常かという判断基準をベテラン技術者が教えた。例えばポンプは脈動するため瞬間的な値は無視できることや、異常な電流が設備にどんな影響を及ぼすかといったノウハウを共有した。これらの判断基準を基にITエンジニアが分析アルゴリズムを作成し、設備異常の予測機能を開発したという。