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ITベンダーによる不正会計は2000年代後半にも相次ぎ発覚した。中には経営破綻したり経営者が逮捕されたりした企業もあった。繰り返される背景にはIT業界の構造的な問題がある。

 今回のネットワンシステムズが主導した循環取引はIT業界にとって珍しい事件ではない。2000年代から何度も不正会計事件が起こっているからだ。中には事件を発端に経営破綻や事業譲渡を余儀なくされた企業もある。

 特にIT関係者に衝撃を与えたのは、今から12年前の2008年4月に発覚したニイウスコーの事件だ。同社は日本IBMと野村総合研究所の共同出資会社として誕生し、金融向けシステムを得意とする東証2部上場会社だった。事件発覚当時は日本IBMの最大のディーラーでもあった。

 中堅ITベンダーの中で堅実な優等生――。こう見られていたニイウスコーは2008年2月に2008年6月期の中間決算発表を延期すると発表。その後の調査で不正会計が発覚し、負債総額は子会社含め558億円に上った。

 ニイウスコーは子会社とともに民事再生法の適用を申請したものの、経営再建を果たせなかった。最後は主力事業を分割し、複数のITベンダーが引き取る形で解体された。後に経営者は逮捕され、裁判で有罪の実刑判決を受けた。

表 IT業界で発生した主な不正会計事件
数百億円単位の水増し計上が続発
表 IT業界で発生した主な不正会計事件
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 会計不正で会社が消滅したのはニイウスコーだけではない。例えばインターネット総合研究所の子会社だったアイ・エックス・アイ(IXI)は2007年1月に経営破綻した。2006年3月期の売上高403億3500万円のうち、実に97%に当たる391億円が架空の売り上げだったためだ。

 IXIは架空のシステム製品を作り、その転売を繰り返す循環取引に手を染めていた。経営層が主導し、企業ぐるみだった点が特徴だ。「監査法人に気付かれぬよう取引額を1億円未満に抑える」といった決まりや、架空取引をしやすいように架空の取引先の詳細や架空の案件名の候補まで、経営層が決めていた。

 中堅ITベンダーのアクセスも不正会計によって会社が消滅した。同社は上場後に売上高を大きく見せて倒産を回避しようと架空取引を繰り返した。

 具体的には2004年3月期に3期連続の赤字を計上した同社は、本来であれば2005年4月以降に売上計上するはずのプロジェクトを2005年3月以前に前倒しした。最終的にアクセスは日本コンピューター・システム(現NCS&A)に吸収合併された。IXIもアクセスも経営層が逮捕されている。

IT業界の「構造悪」が温床に

 ニイウスコーやIXI、アクセスの例を見るまでもなく、不正会計は必ず明らかになり、その結末には経営破綻などの不幸な出来事が待っている。にもかかわらず、IT業界で再び不正会計が起こった。

 背景にはIT業界独特の取引構造がある。企業向け情報システムの開発サービスは複雑な商習慣によって成り立ち、完成した製品やサービスが目に見えないものが多い。監査といった第三者の「目」をすり抜けて不正会計がしやすいのだ。具体的には3つの取引構造が不正会計の温床になっている。

図 IT業界で不正会計が多い理由
図 IT業界で不正会計が多い理由
IT業界の商習慣が不正会計の温床になっている(背景:Getty Images)
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 1つ目は多重下請け構造だ。大規模なシステム開発プロジェクトは一般に、プロジェクトを受注したプライム(元請け)のITベンダーが作業を分割して複数のITベンダーに仕事を依頼する。2次請け、3次請けと階層が下がるに従って、誰がどんな作業をしているか把握しにくくなる。

 2つ目はシステム開発の成果物が目に見えにくい点だ。ITに詳しくない会計監査人が、「プログラムの動作が正しいか」など、契約通りの成果物を納品しているかどうかを確認するのは難しい。ハード製品が受注元を通さず出荷元から納品先に「直送」される商習慣も不正を見えにくくしている。

 3つ目は分業が進んでいる点だ。ハードウエアだけを見てもサーバーベンダー、ネットワーク機器ベンダーなど様々な事業者が介入する。加えてミドルウエア、アプリケーションの領域でも分業が進んでいる。複数の分野の専門家が集まって、1つのシステムを構築するプロジェクト体制が多重下請け構造とともに、プロジェクトの全貌を把握しにくくしているのだ。