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 実店舗を展開する小売業は現在、100年以上ぶりに訪れた技術変革期のまっただ中にある。客が店頭で商品を手に取って選びレジで集中精算するおなじみの光景、スーパーマーケットやコンビニなど様々な業態が採用する「セルフサービス方式」が一変しようとしているのだ。セルフサービス方式は1916年に米国で生まれたとされる。セルフサービス方式の登場以前は、量り売りの精肉店や八百屋などのような、店員が客の注文に応じて棚や倉庫から商品を取り出して代金と引き換えに商品を渡す形が一般的だった。

 セルフサービス方式は、米国でレジスターが発明されたことが引き金となり誕生した。以降、商品の売り上げを単品単位で集計管理できるPOS(販売時点情報管理)システムなどが登場したが、その効果は多店舗管理のしやすさや業務効率の向上といった経営面が中心だった。客が手に取った商品の代金をレジで支払う基本的なスタイルは変わっていない。

 ところがここ数年、再び私たちの買い物の常識を塗り替える技術革新の波が押し寄せている。セルフサービス方式以前の小売業をバージョン1.0として、セルフサービス方式で店舗や買い物のあり方がバージョン2.0へと進化したとするならば、今はバージョン3.0への変革期だと言える。

図 技術革新と店舗の進化
図 技術革新と店舗の進化
3つの技術革新が店舗や買い物のあり方を変える
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 小売業バージョン3.0へのカギとなる技術革新は大きく分けて3つある。まず「無人決済」。カメラやセンサー技術を駆使して、レジすら通らずに商品を持って店を出るだけで買い物ができる未来が近づいている。

 2つめは「データとAI」である。販売履歴や気象情報、客の店内での行動といったデータを分析して、商品の値付けや仕入れ、接客や販促など多方面に活用する。

 3つめの技術革新が「リアル店舗とECの融合」だ。店舗は必ずしも商品を買うための場所ではなくなる。消費者はメディアのように編集された空間で商品との出合いを楽しみながら、好きなタイミングや場所で購入したり受け取ったりできる。3つの技術革新が後押しする小売業の新たな取り組み、「リテールテック」の最前線を見ていこう。