米国のビッグテックに人員削減の嵐が吹き荒れている。「GAFAM」だけでもこの数カ月で5万人規模のレイオフを実施。新型コロナ禍で人員を急増させた反動だが、裏には冷静な計算も透けて見える。
同僚に突然連絡が取れなくなった──。米国のビッグテック「GAFAM」の一角を占める企業に勤めるソフトウエアエンジニアは、所属する企業が大規模レイオフ(一時解雇)を発表した当日のことをこう思い出す。
いつも通り朝食を食べてすぐのことだった。「業務の関係で早朝にチャットしようとしたら、そもそも相手のアカウントがなくなっていた」。不思議に思って個人のFacebookで連絡してみても既読にすらならなかった。
このエンジニアはメッセージを送った数時間後に、報道で自分の会社が大規模なレイオフを実施したことを知った。「これが原因か……」。レイオフされた同僚からは約1週間後に返信があったが、メッセージの内容はプライベートなことなので明かせないという。
レイオフ発表後も社内でリストなどが配布されず、「誰がレイオフされたか分からないのが不気味だった。社内システムで閲覧できなくなって初めて、『この人も辞めたのか』と知る感じだ」。このエンジニアはレイオフの発表以降、プライベートで会社の同僚に連絡を取りづらくなったと感じている。誰がレイオフされたか分からず、気軽に会話できる雰囲気ではないからだ。
23年1月だけで10万人レイオフ
米国大手テック企業で2022年11月ごろからレイオフの嵐が吹き荒れている。その数、いわゆる「GAFAM」だけで約5万人(米アップルのみ大規模なレイオフを実施していない)。
エンジニア採用サービスの米トゥルーアップによれば、2022年に米国のテック企業で24万1176人のレイオフがあった。2023年になってもその嵐はやまず、2023年1月だけで既に10万7840人に上る。
米国のテック企業が変調を来しているのは明らかだ。
グーグル、アップル、メタ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトのGAFAM各社は事業領域もビジネスモデルも異なる。それでも各領域の「プラットフォーマー」であり、この10年間、盤石の領主として君臨してきたという共通点はある。このレイオフは、彼らの終わりの始まりなのか。
レイオフに対して、GAFAM首脳は「行き過ぎた投資」という共通点を挙げている。
メタのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は大規模レイオフに当たって従業員に向けた書簡で「新型コロナウイルスによって世界が急速にオンライン化され、EC(電子商取引)の急増で桁外れの収益成長を遂げた」と前置きし、「コロナ後も続く恒久的な加速度的成長であると予測して投資額を大幅に増やす決断をしたが、私の期待通りにはいかなかった」と反省を口にした。
グーグルのスンダー・ピチャイCEOも同様の理由を挙げた。従業員に宛てたメールの中で、ピチャイCEOは「過去2年間、我々は劇的な成長を遂げた。その成長に合わせて、我々は現在とは異なる経済の現実を求めた」と振り返った。