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日本の大企業がスタートアップに出資する動きが広がっている。狙いは金銭的なリターンではなく、デジタル変革の推進にある。ディスラプションへの強い危機感から、オープンイノベーションに活路を求める。

 新型コロナウイルスの感染が日本でも社会問題になり始めた2020年2月半ば。多くの人が集まるイベントの開催場所をVR(仮想現実)空間に切り替えるといち早く発表した企業があった。KDDIである。

 KDDIは2月18日、スタートアップと日本の大企業とを結びつけるイベント「MUGENLABO DAY2020」の会場を都内のホテルからVR空間に切り替えて開催すると発表した。3月24日に予定するこのイベントは、スタートアップが「5Gを使ったスタジアムでの新たなスポーツ観戦体験」といったテーマで事業アイデアを発表して競い合う「ピッチイベント」だ。KDDIが2011年から開催する恒例企画で、2019年はスタートアップや大企業の担当者など600人が参加した。

バーチャルイベント・プラットフォーム 「cluster」を使って開催するKDDI のイベント「MUGENLABO DAY 2020」の予想図
バーチャルイベント・プラットフォーム 「cluster」を使って開催するKDDI のイベント「MUGENLABO DAY 2020」の予想図
(画像提供:KDDI)
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 今回はVRゴーグルやパソコン、スマートフォンなどを使ってイベントに参加する。参加者はバーチャル空間で発表を見て、アバター(バーチャル空間上の分身)を通じて「拍手」や「コメント」を送る。KDDIの高橋誠社長もアバターを使って基調講演する予定だ。スタートアップであるクラスターのバーチャルイベント・プラットフォーム「cluster」を使用する。

CVC経由で開発元に出資

 KDDIがこうした対策を素早く打てたのは、開発元であるクラスターと強い結びつきがあったからだ。KDDIのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)である「KDDIオープンイノベーションファンド」は2018年9月にクラスターへ出資している。CVCとはスタートアップへの投資を専門に手がける組織である。

 KDDIのCVCが運用する資金は300億円で、VRやIoT(インターネット・オブ・シングズ)、EC(電子商取引)、AI(人工知能)、FinTech、ゲーム、教育などの分野のスタートアップ70社に投資している。KDDIの狙いは社外で生まれたイノベーションを自社の事業に生かす「オープンイノベーション」の推進だ。KDDIビジネスインキュベーション推進部の中馬和彦部長は「ここ数年は5Gを使ったサービス開発を見据え、より幅広い業種のスタートアップ企業に投資している」と話す。