スタートアップにお金を出すだけでは、自社との「相乗効果」は得られない。有望な出資先をどう発掘し、どう連携すればシナジーを発揮できるのか。東急やSOMPO、KDDI、ヤフーのスタートアップ活用術を紹介しよう。
オムニチャネルやIoT、デジタルマーケティング――。東急電鉄や東急百貨店などを傘下に置く東急はデジタルトランスフォーメーション(DX)に欠かせないこれらの取り組みを、出資したスタートアップと連携して進めている。東急は雑貨のネット通販を手掛けるIROYAやIoT機器スタートアップのアクアビットスパイラルズなど6社に出資している。
東急の取り組みで興味深いのは、出資するスタートアップの見極め方だ。2015年に「東急アクセラレートプログラム(TAP)」というスタートアップ支援策を設け、スタートアップにはまず東急子会社や東急不動産ホールディングスの子会社などからなる東急グループ26社と様々な形で協業してもらっている。
PoCの結果を見て出資を判断
協業による効果が確認できたスタートアップの中で「東急から出資してほしい」と言ってきた企業にのみ、東急グループからの出資を検討する。これまでにTAPを通じて50~60社の技術を試した。そのうちの30社について、事業提携したり、東急グループが技術を導入したりしたという。
例えばIROYAとは、東急百貨店との間で在庫を連動させて実店舗とネット店舗の販売データを検証する取り組みをした。そこで実際に売り上げが伸びたことから出資につなげた。
アクアビットスパイラルズとは東急ストアや東急エージェンシーが連携。例えば東急ストアにおいて特売の野菜の近くに設置したQRコードにスマートフォンをかざすと、スマホアプリにレシピが表示されるサービスを試した。買う食材を決めずに来店した客に対してレシピを表示する取り組みが、商品の販売増につながることが分かったため東急グループとの関係を強化した。
東急グループの特徴は、鉄道、バス、百貨店、スーパー、旅行会社、広告代理店、不動産など多様な業態を営んでいるところにある。東急の加藤由将フューチャー・デザイン・ラボ・イノベーション推進担当課長補佐は「技術やサービスはあるものの、どう事業展開していいか模索しているスタートアップに対して多様な場を提供できているのがTAPの強みだ」と語る。
TAPは支援対象のスタートアップを常時募集している。グループ26社で構成するTAP事務局が月に1回を審査して支援先を決める。スタートアップは東急グループ各社と連携して、東急の設備やデータなどを使ってPoCをする。そこで好感触を得られ、かつ会社としての相性も良さそうだと判断すれば、本格的な業務提携や出資を検討する。