将来は「ジーニアスバー」に

 「店主」を置いたのは始まりに過ぎない。今後は例えば店主にSNSの「インスタグラム」で情報を発信してもらったり、イベント集客をしてもらったりと構想は広がる。広報担当となった照井氏は「将来的にはアップルストアのジーニアスバーのような存在になれるといい」と話す。Webから予約ができて、コーヒーの専門家とおいしいコーヒーを飲みながら、コーヒーのいれ方を学ぶ。購入したコーヒーミルが壊れれば、またそこに持参する。そうしたリアル店舗ならではの世界を目指しているという。

 店員を主役にする取り組みは各社で見られる。例えばエディオンがカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のフランチャイズとなって展開する広島の蔦屋家電がそうだ。書店とカフェ、家電売り場を統合した店は、2017年4月の開業から1年たっても「来店客数は減らず、再来店率も高い。一般店舗の2倍程度の集客力がある」(エディオンの住田徳也販促企画部長)。

 蔦屋家電で働く従業員は野菜ソムリエやカメラマンなどその道の「プロ」だ。CCCの力を借りて来店率を上げ、自社が誇れるサービスを客に体験してもらう。「店舗に愛着を持ってもらうことこそが再来店につながる」(エディオンの中村誠デジタル企画推進部長)。

 国内で始まった店舗改革は、まだ途上にある。ECだけでは勝てず、実店舗を温存しておくだけだと負ける。総合力でいかに勝ち抜くか。勝負の土俵はリアルとデジタルの垣根を超えた領域へと移りつつある。

米国に5年先の未来が進む店舗のデジタル化

 see now buy now、今見たものを今買える―。そんなファッションショーを2年前に始めたアパレルブランドがある。米国の中堅ブランド、レベッカミンコフだ。

 それまでファッションショーで公開された商品は半年以上後になって店頭に並ぶのが一般的だった。ショーに招待されるのはファッション誌の編集者やモデルなど限られた人だけ。それをレベッカミンコフは一気に「破壊」しにかかった。ショーで発表したアパレル商品はその日のうちに店頭に並べる。ショーの最前列には一般のブロガーなどを招待する。常識破りのショーに業界関係者の間では賛否両論が渦巻いた。一方でレベッカミンコフの存在感は、国内外問わず一気に上がった。

試着室で顧客を「知る」

 ショーだけではない。レベッカミンコフは店頭でもテクノロジーを駆使した新しい取り組みを始めている。1つがデジタルミラーだ。試着室に入ると、持ち込んだ商品について、サイズや色、在庫がミラーで確認できる。ミラーをタップして店員を呼んで別の色を持ってきてもらうことも可能だ。持ち込んだ商品に合う別の商品をミラーを通じてレコメンドすることで、試着室に入った顧客の40%が商品を追加購入している。レベッカミンコフの共同創業者のユリ・ミンコフCEOは、POSから得られる購入データだけではもはや顧客を捉えられないと話す。「顧客をフィッティングルームに連れて行くきっかけになった商品が何で、どのような商品が一緒に持ち込まれたのか、持ち込まれた商品のプライスレンジはどうだったのか、といった従来図りきれなかった顧客の嗜好性が分かる」と導入の意義を語る。

 デジタルミラーの取り組みはレベッカミンコフのほか、米国の高級百貨店ニーマンマーカスや化粧品専門店のセフォラが導入している。デジタルミラーを提供する米国のベンチャー企業、メモミラボの「memomi」は、特に化粧品売り場での導入が進んでいる。化粧品を試す際に、何度もメイクを落とさずに色味を試せるという。

[画像のクリックで拡大表示]

 自分に適した商品を見つけられることは、店頭訪問の動機の1つになるはずだ。スウェーデンの新興企業ボルメンタルの3Dスキャナーは、ものの数秒で足の形や甲の高さなど約10項目を計測する。靴は同じ大きさでも甲の高さが異なるなど様々なサイズがある。ボルメンタルのスキャナーを店に導入することで、利用者に適切なサイズの靴を提案できる。取得したデータをAIで分析し、サイズや足の特徴にあったシューズを選び出す。世界中の足のサイズやパターンと、世の中に販売されている靴のサイズや特徴をデータとして保有することで、利用者に適した靴選びが可能になるという。既にスポーツ用品メーカーのニューバランスが店頭で導入している。

[画像のクリックで拡大表示]

 ロボット活用も進む。米ウォルマートは2017年10月に棚管理ロボットを50店舗以上に導入すると発表した。全米小売業総会「NRF 2018 Retail’s Big Show」ではウォルマートが導入するロボット「Bossa Nova(ボサノバ)」が展示された。在庫チェックにかかる時間を人間の3分の1程度に縮められるという。ほかにも小売店や倉庫で利用できる在庫管理ロボットの展示が目立った。米フェローロボッツの「NAVii(ナビ―)」もその1つ。2014年に発表された同製品は、米国で100店舗以上展開するワインショップのベブモや、米国の生活家電チェーンのロウズが導入しているという。

[画像のクリックで拡大表示]

 ロボット以上に存在感を見せるのが店舗分析ソフトだ。NRF2018に出展していた多くの企業が店舗の導線解析や来店客の顔認証技術などを披露した。米インテルはブースの最も目立つところで、顧客解析ソフトをプレゼンテーションしていた。

[画像のクリックで拡大表示]

 米国では大手小売りが積極的に店舗のデジタル化に取り組み始めている。実証を終え、実用期に入ったといえるだろう。