店舗網の大きさが小売業の存在感と直結する時代は終わる。「店なし」でも十分に成長できる事業モデルが確立しつつあるからだ。店を持つ全ての企業が変革を迫られている。

 ニューヨークのマンハッタン。個性的な専門店が集まるノリータ地区に、2017年12月に新しい衣料品店が開業した。ガラス張りの入口には大きく「Hello、New York.」の文字。開業から1カ月が過ぎても店の外には行列ができ、入場が制限されている。行列を待つ30代女性は「友達に勧められて来てみた」と興奮を隠せない様子。さながら日本に海外の有名飲食店が上陸したかのような騒ぎだ。

ニューヨーク・マンハッタンに開業したオンライン発のアパレル店舗、エバーレーン。行列が絶えない
ニューヨーク・マンハッタンに開業したオンライン発のアパレル店舗、エバーレーン。行列が絶えない
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 この建物の正体は、米国の新興企業エバーレーンが開業した実質初めての店舗。驚くべきは店を出した時点でエバーレーンの顧客は100万人を超えていたということだ。エバーレーンは2010年にサンフランシスコで創業したオンラインSPA(製造小売業)。ECだけで自社商品の販売をする企業だ。100万人と言われる顧客はオンラインの会員数だ。出店攻勢や中間業者の利用、大規模な宣伝広告とは一線を画し、オンラインだけで成長を遂げてきた。

 小規模ロットで商品を作り、売り切ることを前提とし、在庫を極力持たない。そのため大規模なセールをすることもない。新商品は発売前にSNSなどで事前告知し、ウェイティングリストを用意。おおよその需要が読めるため、生産予測が可能になる。大規模な宣伝や店舗運営をしないことで、商品の素材やデザイン、顧客サポートという本来アパレル企業が資金を投入すべきところに集中する。商品の価格帯は、シャツが1着60~90ドル(約6300~9500円)、ワンピースであれば70~150ドル(約7700~1万6500円)程度だ。

 米国ではオンラインで事業を始め、その後実店舗を展開するやり方がいまや常識となっている。2018年2月に米シアトルに誕生したレジのない小売店「Amazon Go」もそうだ。米アマゾン・ドット・コムにとっては、自ら出店した初めての店舗。世界で最も多くの購買データを持つともいえる同社の店舗展開は、小売業全体を脅かす存在になるはずだ。

 エバーレーン以外にもオンラインでSPAを展開するブランドは増えている。メガネブランドの「Warby Parker(ワービーパーカー)」が先駆けといわれ、その後スニーカーの「GREATS(グレイツ)」、化粧品の「Glossier(グロシアー)」、さらにはマットレス製造の「Casper(キャスパー)」など枚挙にいとまがない。どこも最低限の店舗数や限られた百貨店への提供にとどめる。グレイツのライアン・バベンジンCEOは「全米に店を張り巡らせるようなことはしない」と断言する。

コンビニが「ダークストア」に

ベンチャー企業の600が手掛ける新手の自動販売機。オフィスやマンションにコンビニような利便性を持ち込む
ベンチャー企業の600が手掛ける新手の自動販売機。オフィスやマンションにコンビニような利便性を持ち込む
(写真:北山 宏一)
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 日本にもこれまでにない「出店」で新しい小売りを目指す企業が登場している。ベンチャー企業の600が目をつけたのは自動販売機だ。

 昨年末、渋谷区のシェアオフィスに見たことのない自販機が現れた。中には栄養ドリンクやパン、菓子が並ぶ。利用者はドアに取り付けられたクレジットカードのリーダーにカードを読み込ませ、ドアのロックを解除。商品を取り出し、ドアを閉めれば終了だ。RFIDで管理された商品のため、決済はドアを閉めた時点で完了している。入居する企業の社員は「コンビニに行く回数が減った」と話す。