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既存のデータベース(DB)のクラウド移行には、特有の難しさや解決すべき課題がある。移行のメリットを引き出し、リスクを管理する計画と設計および運用の変更が必要となる。クラウド移行自体は目的ではなく、DXでのデータ利活用を意識することが重要である。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するため企業の情報システムには社会情勢や顧客ニーズの変化に対応するスピードや柔軟性が求められます。クラウドの特徴である導入の速さや規模の拡大・縮小についての柔軟性はDX推進には欠かせません。新規システムだけでなく既存のIT資産もクラウドへの移行によってスピードや柔軟性を得ることは重要です。

 企業内のオンプレミス環境にあるデータベースもクラウド移行の対象として例外ではありません。ビジネスの中で蓄積された各種データをAI(人工知能)など最新技術を使って分析し活用することは意義のあることです。

 一方、既存のデータベース(DB)、特に商用DBにおいては、ビジネスのニーズに伴って容量、数ともに拡大し、ライセンス費用や保守費用などのコストも増大します。システムの維持が大きな負担となってきたことも既存のDBのクラウド化を後押しする要因となっています。

 その背景としてオープンソース(OSS)DBの機能・性能の向上が挙げられます。その結果、それらをサービス化したマネージドサービスが既存のDBをクラウドに移行する際の現実的な選択肢となってきました。ただし、DBシステムのクラウド移行にはアプリケーションの改修にとどまらず、クラウドに向けた運用手順の変更、そしてデータの移行といった特有の難しさや解決すべき課題が多く存在します。

 ここではクラウドのメリットを引き出しつつ、適切にリスク管理しながらDBの移行を成功させるために考えるべき移行計画や設計変更、運用変更のポイントについて説明します。

商用DBからOSSDBに

 クラウドへの移行と同時に、商用DBからオープンソースベースのDBに移行するニーズが増加しています。ここではオンプレミスの商用DBからクラウドのOSSDBに移行するケースを考えてみます。以下の3つの方法が考えられます。

(1)オンプレミスの商用DBをクラウドにリフト(Lift)してからOSSDBにシフト(Shift)する(リフト&シフト)
(2)オンプレミスの商用DBから直接クラウドのOSSDBに移行する(リフト+シフト)
(3)オンプレミスの商用DBをOSSDBに移行してからクラウドにリフト(Lift)する

 既存のシステムについて(大幅な改修はせずに)あるがままに近い形でクラウドへ移行する縦方向の動きである「リフト」、クラウドでのメリットをより生かせるようにマネージドサービスなどのクラウドに最適化されたサービスに移行する横方向の動きである「シフト」の2つのアクションがあります。

図 データベース移行時の「リフト」と「シフト」の概要
図 データベース移行時の「リフト」と「シフト」の概要
クラウド化のハードルを「リフト」で低く、「シフト」でメリットを最大化
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 「リフト」については既存システムをできる限りそのままクラウドに移行するものであり、その作業は比較的容易です。ただしクラウドならではのメリットは少なくなります。「シフト」についてはDBMS(データベース管理システム)の変更に伴うアプリケーションの修正や、クラウドのメリットを生かすための運用面での変更など、シフトよりも難易度は高くなります。

 クラウドへの移行が最優先である場合は(1)を選択し、OSSDBへの移行が優先される場合は(2)を選択します。(3)については(2)とコストや対応期間が大きくは変わらないためほとんど選択されることはありません。

 DBのクラウド移行をDX推進のための手段として考えると、むやみに既存システムをクラウドに「リフト」するのは得策ではありません。企業内のDB層を全体的に見て、機能・非機能でのギャップとクラウド化への影響を事前に評価したうえで、適切なクラウドサービスへの「シフト」を選択するといった適材適所の考え方が重要です。クラウドネーティブなPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を利用する方がスピードや柔軟性を得やすいからです。