DX(デジタルトランスフォーメーション)はデータの活用ができて初めてビジネスにつながる。自律型データベース(DB)を使うことで、データから価値を生み出す作業に集中できる。人が担っていたDBの稼働・保護・修復といった作業を自動化する。
これまで人が担っていた管理作業をAI(人工知能)で自動化する――。今回解説する米オラクルのOracle Autonomous Data Warehouse Cloud(ADWC)は自律型という他のサービスにはないコンセプトのデータベースサービスです。
ADWCはデータウエアハウス(DWH)向けに最適化された自律型データベースですが、オラクルはトランザクション処理向けに最適化した「Oracle Autonomous Transaction Processing(ATP)」も提供しています。ATPについても後半で触れながら、これまでのDWHの課題をADWCでどのように解決できるのか、デメリットも含めて解説します。
自律型DBでDXを加速
レガシーシステムの刷新がDXのゴールではありません。データに基づいて市場の反応を把握し、迅速に改善を続けてビジネスの競争力を高めることが最大の目的です。迅速に進めるには、内製化によってレスポンス良く対応するのが近道です。しかし、ユーザー企業だけでは必要とするスキルが十分にそろっていないことがあり、内製化の障壁になります。必要に応じて、自社に不足しているスキルをITベンダーや自動化で補うことが、DXにおいては効率的です。
ここで有効なのが自律型データベースです。データ基盤に関して、これまでデータ活用を遅らせる要因となっていたDWHの構築やチューニングについて、自律型データベースに任せることで、一定の品質を保ちつつスピーディーに進められます。データ分析作業に割く時間も増えることになります。
スピード感を意識したスモールスタートとアジャイル開発を進めるうえで、自律型データベースは有効な選択肢の1つです。運用の手間を減らして、ビジネスチャンスにつなげるための競争力を得る改善作業に力を注ぐことがDXを成功させるカギになります。
自律型DBで解決する課題
人材と内製化:国内においてIT人材の不足が叫ばれています。データ基盤を設計・構築・運用するデータベース管理者(DBA)も例外ではありません。多くのユーザー企業はデータベースに精通した人材を確保できておらず、今後も少ない人材を確保するためのコストが高くなると考えられます。
確保した人材が期待通りデータベースに精通しており、幅広いタスクをこなせる人材であるとは限りません。運良く高スキルの人材を確保できた場合でも、継続して雇用を続けられる保証もありません。さらに属人化してしまうと将来的なシステムの維持に支障が出ます。これらの問題点の一部は、DBのコアな技術を自律型データベースによって補完することで解決可能となります。
コスト:自律型データベースはDXを活用し、競争力を高める「攻めのIT投資」に適しています。自律型データベースを使用して、品質を維持・向上させるとともに、業務にスピード感を持って取り組むことで、攻めのIT投資につなげられます。
現状、DXを進めるに当たり、経営層の理解がなかなか得られずにうまく進められないケースを耳にします。DXの加速には、短期間で小さな成功体験を積み重ねて、横展開することがポイントになります。データベースの性能問題や障害対応によってDXのスピード感が落ちてしまうのは本末転倒です。自律型データベースを使用することで、あらかじめDXを加速させる障壁となる要因を取り除けます。
ADWCと米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の「Amazon Aurora PostgreSQL」、そしてオンプレミスのOracle Enterprise Edition(Oracle EE)の年間のランニングコストを試算して比較した場合、ADWCは単純に見れば割高ですが、自律型データベースを採用することで、実作業の多くを自動化できます。ただし、管理的業務については全てが自動化できるわけではなく人手がかかるため、DBAを非常駐もしくは兼任といった形でアサインするのが現実的です。
ADWCの意義を整理すると次の点が挙げられます。(1)データベースの管理作業が減る分、開発のスピードを上げられる。DXの場合、成果を早く出せるメリットがある。(2)DBAの管理コストを減らせる。DBAの作業品質が低下した場合を考慮しなくてもよい。(3)Oracle Cloud上のDBマシン「Oracle Exadata」の機能を利用でき、Oracle Databaseのオプションを全て使える、といった点です。
ADWCは高価ではあるものの高性能・高機能のクラウドサービスと言えます。これらを鑑みて、追加費用をかけてもいいと判断できる場合には採用を検討するとよいでしょう。
オンプレミスのOracle EEと比較した場合、ADWCはコスト面では大きく変わりません。ただし、自動化に加え、独自の高速化技術を備えている点も魅力です。性能面でのメリットをどう考えるかによって、ADWCのコストパフォーマンスは変わってくるでしょう。
料金が安価なサービスを採用した場合、性能が得られずにCPU数を増やして対処していくと、結果的に費用が上がるケースも考えられます。性能を担保するための投資と考えて、コストをかけてでもあらかじめリスクを排除するのが合理的な場合はADWCを使用するのがよいでしょう。インフラのコストを抑えて、スキル保持者で設計・運用を適切に管理できるのであれば、Amazon Aurora PostgreSQLなどの製品を使用するのがよいと考えられます。