デジタル施策の要はデータとAIの徹底活用だ。保険金の支払いという基幹業務の質を高め、さらには損害そのものに遭わない世界を目指す。国内外に協業の網を張り巡らせ、最先端のデジタル技術を結集し変革に突き進む。
事故を届け出たらその日のうちに保険金を受け取れる自動車保険。地震の被害状況の現地確認なしにわずか3日で保険金を支払う地震保険。農作物の生育状況を予測して適切な栽培用法を選び、発育被害を未然に防ぐ農業保険――。東京海上グループが損害保険の常識の壁を越えようと挑んでいる。
これまで保険と言えば、査定担当者が現地を訪れて事故や被災の状況を確認、過去の事例や担当者の知見などを基に数日から数週間かけて損害の程度を判定して保険金の額を決める、といったプロセスが当たり前だった。
従来の保険査定プロセスをデジタル技術で変革し、素早く正確に保険金を支払う。さらに被害を予測して事前に手を打ち、損害そのものをなくす。
「保険の商品やサービスで顧客の“いざ”を守る」(東京海上ホールディングス=HDの小宮暁社長)。東京海上グループが掲げるパーパス(存在意義)を支えるため、世界のスタートアップ企業と協業し、グローバル規模でデジタル技術の活用に磨きをかける。
地震の保険金、最短3日で
2021年3月、東京海上日動火災保険は国内で初めての地震保険を発売した。「震度連動型地震諸費用保険」と呼ぶインターネット専用保険だ。
最大の特徴は保険金支払いまでの期間の短さにある。気象庁の震度データに基づき、地震が起きてから最短3日で保険金を支払う。従来は1~2カ月かかっていた。
インデックス連動型と呼ぶタイプの保険商品だ。同社の担当者が現地で被害状況を確認するのではなく、自然災害として観測した指標(インデックス)に基づき保険金を支払う。
契約者が支払う保険料は2400円から9600円の一括払いで、受け取れる保険金は5万~50万円。本格的な補償内容の地震保険を補完する位置付けだ。申し込みから保険金の受け取りまで手続きを全てスマートフォンで実施できる。「被災直後に必要となる当座の生活資金を補償する。大規模な震災時に特に有用とみている」(東京海上HDの前川純一デジタル戦略部デジタルR&Dグループアシスタントマネージャー)。
同保険の開発には東京海上日動が蓄積した過去の膨大な地震関連データを使った。同データを基に震度と保険料、保険金額のテーブルを策定。契約申し込みの受付から契約管理、地震発生後の契約者への連絡、保険金支払いまでのシステムを新たに開発した。