「人事(HR)」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語である「HRテック」。手作業でこなしていた人事業務をITで自動化して、効率を飛躍的に高めたり、従来のやり方では難しかったデータ分析を可能にしたりする技術だ。いまHRテックをうたったクラウドサービスが本格的な普及期に入っている。
IT分野の調査会社であるミック経済研究所が2020年1月7日に発刊した『HRTechクラウド市場の実態と展望2019年度版』によると、人事業務のクラウドサービス市場は急速に伸びている。2019年度の同市場は前年度比36.1%増の349億円に拡大。今後も増加傾向は続き、2020年度に476億円、2024年度には1700億円の市場規模に達すると同社は予測する。
個別業務型と統合型サービス
HRテックのクラウドサービスは業務分野ごとに「採用管理」「タレントマネジメント」「労務管理」の大きく3種類に分類できる。これら個別の人事業務を扱うサービスの他に、複数の業務を対象とした「統合型」のサービスもある。
採用管理サービスは採用業務における応募者と企業のコミュニケーションを円滑にしたり、採用に関わる業務の負荷を軽減したりする機能を備える。タレントマネジメントサービスは従業員のスキルや職歴、モチベーションなどのデータを管理し、人員の最適配置や離職防止に生かす。労務管理は勤怠管理や給与計算、社会保険などに関する手続きと作業を効率化するサービスである。
統合型サービスは、これらの業務を統合的に支援する。例えば米ワークデイが提供するクラウドサービス「Workday」はその1つだ。
ワークデイは全世界で2800社を超える企業が同じサービスを使うというクラウドの特徴を生かし、ベンチマークデータを顧客企業に提供している。具体的には、Workdayに蓄積した実データを統計処理して導入企業に提供する。
導入企業は業界の給与水準や人材採用コストといったデータを参照できる。統計処理の対象はデータの提供を承諾した企業に限られるが、それでも人事部門には参考となる。
ベンチマークデータの提供はオンプレミスのシステムで実現しにくかったサービスだ。テクノロジーの進歩によって従来は不可能だった機能を搭載した好例といえる。
前述した3種類の個別業務型のサービスについて、特徴的な機能や最新の動向を詳しく見ていこう。