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失敗例は「メッセ見て」と電話

 製品選定を終えて予算を確保したら、いよいよ導入・展開作業の本番である。ここで重要なのが、導入後の運用を見越したルールを検討しておくことだ。利用者を広げながら徐々に運用ルールを浸透させれば、本格的に使い始めた後の苦労を減らしやすい。

 ビジネスチャットをはじめとするコミュニケーションツールの刷新は、仕事の進め方を変えて業務効率を高める好機だ。メールや電話をただ置き換えるだけではチャンスを生かせない。従来の不合理・非効率なやり方を見直すべきである。

 運用ルールがあいまいなまま導入を進めたことによる典型的な失敗例が、メール派と電話派、チャット派が併存してしまうことだ。同じ連絡事項でも相手によってメールやチャットを使い分けなければならず、かえって効率が悪くなる。

 ビジネスチャットの導入を担うのは一般に情報システム部門だが、ツールが併存するのは同部門だけの責任ではない。利用部門の仕事の進め方や情報共有手段を変える取り組みのリーダーシップは、現場の業務に詳しい利用部門が担うべきだ。「忙しいから今のやり方を変えたくない」といった理由でのサボタージュを放置すると業務効率は上がらない。

 ビジネスチャットを使い始めたとしても、メールや電話時代のルールをそのまま当てはめると効率は思うように上がらない。例えば「○○事業部△△様、お疲れさまです」などとメールのように宛名書きやあいさつをメッセージに書き込むケース。メッセージを送った後、急ぎでもないのに「いまメッセージを送ったので見てください」とメールしたり電話したりする利用者も少なくない。笑い話のようだが筆者が実際に目にした事例である。

 メールにはメールのマナーがあるように、ビジネスチャットにも特有のマナーがある。上司や年長者が相手でも短文で要点を伝える、スタンプやリアクションを使って素早く返信する。ビジネスチャットの特徴を生かした運用ルールを定めた方がよい。

表 ビジネスチャット導入時の典型的なトラブルと対処法
表 ビジネスチャット導入時の典型的なトラブルと対処法
戸惑いや混乱は付き物
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小規模チームから段階的に

 ルールを検討したら次は具体的な導入作業に入る。特に組織が大きい場合、一気に全社展開するのではなく段階的に導入範囲を広げていくのがよい。導入対象の部門を1つ選んで同部門のメンバーから成る小規模なチームを作る。同チームでビジネスチャットを使って効果を検証し、事前に予想できなかった問題を洗い出す。こうすることで事前に検討した運用ルールを実態に合わせて修正できる。小規模であってもコミュニケーション活性化の成功事例を作ることで、他の部門でどのように活用すればいいか具体的にイメージしやすい。

 ではどのような部門を選べばよいのか。筆者のお薦めは営業部門である。理由は冒頭にも述べた費用対効果を、他部門よりも示しやすいからだ。コミュニケーションの無駄を減らすことによるコスト削減効果を人件費に換算できるのはどの部門でも同じ。営業部門ならば浮かせた時間を営業活動や提案活動に充てることで、収益増に貢献した分の費用対効果を上乗せできる余地がある。対象とする営業部門の社員に聞き取りをしたり現場を観察したりして、可能な範囲で費用対効果の仮説を立てよう。

具体的イメージを立てて全社展開へ

 仮説を立てたら次は検証の方法を考える。キーワードは「小さく素早く最小のコストで」だ。検証にかかる期間が短くコストが小さいほど、予算が承認される可能性が高まるうえに何度もチャレンジできる。小さな成功事例をいくつか作っておくと、全社導入する場合も具体的かつ説得力をもって費用対効果を説明できるようになる。

 小規模チームでの仮説検証と本格導入の決断を経て運用ルールを修正し終えたら、次は全社利用を見据えて複数の部門に展開するフェーズに移る。部門横断のプロジェクトチームを結成し、まずチーム内でビジネスチャットを使ってみる。

 部門横断プロジェクトチームには対象部門の責任者に加えて、小規模な仮説検証に協力してもらったメンバーにも参加してもらう。全社展開を見据えた場合、対象部門からでなくてもよいのでやる気のある若手社員をメンバーに加えるのが望ましい。

 同チーム内で具体的な活用イメージを作り出せたら、各部門のどのような業務で使えば効果的かアイデアを募る。ここでもキーワードは「小さく素早く最小のコストで」。簡単に導入できて効果をすぐ実感できそうな業務に絞って実験する。実験で得られた小さな成功事例と失敗事例をまとめて「勝ちパターン」を確立したうえで、全社展開に挑む。

 部門横断プロジェクトのメンバーは、全社展開フェーズで勝ちパターンを伝えるエバンジェリスト(伝道師)の役割を担う。現場に定着するまで部門横断プロジェクトチームは解散せず、各現場で起こった問題や解決策を共有する。

図 ビジネスチャットの導入・展開の方法
図 ビジネスチャットの導入・展開の方法
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 ビジネスチャットが注目を集める理由はコミュニケーションの効率化だけではない。APIを通じて他の業務システムとつながることで、業務の起点や要としてチャットが機能し始める。次回はビジネスチャットと業務システムをつなげる意義と勘所を解説する。

伊勢川 暁(いせがわ・あきら)氏
ドリーム・アーツ プロダクトデザイン本部
金融系のシステム開発を経験後、ドリーム・アーツに入社。営業改革ソリューション「YUKARi」や、業務とつながるビジネスチャット「知話輪(ちわわ)」の立ち上げに従事。個人でも会議効率化ツール「minmeeting」など多数のアプリを開発。