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「上司がこう言っているから」。部下に指示を出す時にこう口にしていないだろうか。自分あるいは部下が意思決定していい範囲を明確に説明できるだろうか。ビジネスにスピードが何より求められる時代に即した権限委譲の方法を解説しよう。

 現場の組織改革を支援していて、現場が良い方向に向き始めた時、筆者は「スピードが出てきた」と感じます。あくまで筆者独特の言い回しですが、具体的には次のような時にスピードを感じます。「雰囲気が明るい」「笑顔やおしゃべりが多い」「上司と部下の会話が多い」「意思決定が速い」「問題意識がある」「何事にもあきらめない」「相互に信頼し尊敬し合っている」「孤独な人がいない」「弱みを共有している」「日替わりでヒーローがいる」「仕事に関する共通の価値観がある」「ゴールイメージや理想の姿が一致している」――などです。

 スピードが出てきた組織はチームビルディングがうまく進み、自律的な組織に変わってきています。さらにスピードを出すために、筆者がアドバイスするのは決まって権限委譲についてです。今回はそこから解説します。

保身を捨て、ドーナツ型で権限委譲

 スピードを全く感じない現場に共通するのは全員が保身に走っている点です。「総論賛成、各論反対」の振る舞いや今までのやり方に固執する働き方が当たり前になっています。皆、挑戦して失敗し、その責任を負わされ、今の地位を失うのを恐れているのです。

 保身は全ての事柄をグレーゾーン(曖昧)にしてしまいます。自分の責任で判断せず、上司の指示の下で部下に指示を出します。部下から相談を受けても、自分では判断せずに上司に伺いを立て、上司はさらにその上司に伺いを立てるという「意思決定伺い」の連鎖が生じます。これを断ち切るには保身という後ろ向きの振る舞いを無くすことが欠かせません。

 その第一歩は、管理者1人ひとりが自分の意思決定する範囲(白黒つける範囲)を明確に決めることです。特に同じ職位の管理者同士がそれぞれの仕事内容を理解し合うコミュニケーションが欠かせません。

 これは管理者同士のバトンタッチゾーン(引き継ぎの場)の縮小にも役立ちます。グレーゾーンの広さはバトンタッチゾーンの拡大につながり、意思決定スピードはバトンタッチゾーンの大きさに左右されます。狭ければそれだけ意思決定を速くできます。

 意思決定が遅い組織は全ての階層で上司と部下のそれぞれの間に権限のグレーゾーンが存在し、最終的な決定は経営トップに委ねられます。上司が部下に仕事を頼んだり何か方針を説明したりする際に「(私の)上司がこう言っているから」と常に口にする組織も意思決定が遅い組織の特徴です。

 意思決定伺いの連鎖を断ち切る第2ステップは部下への権限の見直しです。上位者は自身の意思決定範囲の内側にグレーゾーンを設け、そのさらに内側の権限を委譲するのです。イメージをお伝えすると、ドーナツの真ん中の空洞が委譲する権限で、食べる部分がグレーゾーンです。

 グレーゾーンは部下が「一歩踏み出しても良い領域」です。部下が権限を超えて意思決定しても、上位者にとっては想定内であり、十分に部下を守れます。こうすると上位者は松下幸之助の名言でもある「任せて任せず」を実践でき、同時に部下に意思決定権を与えることで意思決定スピードを高める自律した行動を促せます。

 権限を委譲する際、部下を守るための「安全領域」の考慮が欠かせません。筆者の権限委譲のやり方では必然的にグレーゾーン(ドーナツの部分)が安全領域となります。大切なのは全従業員に安全領域を設けていると周知したうえで、上司は部下を寛容な心で見守る姿勢を忘れないことです。

 この権限委譲がしっかりできるとおのずと組織のスピードが上がります。それぞれの層での意思決定のスピードが速くなるだけでなく、仕事や作業に対する気持ちが前向きになります。任せられていると分かると上司への信頼感も高まり、問題行動が減ります。

図 権限委譲のやり方の違い
図 権限委譲のやり方の違い
明確な権限委譲が第一歩
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発想力と行動力を引き出す

 権限委譲のやり方を変革したら、次は部下の発想力と行動力を高めます。昨今の多くの企業では失敗を恐れるあまりに「正解」を求め過ぎて、発想力や行動が乏しくなってきています。正解はどこにも存在しません。正解を探すのではなく、稚拙なアイデアでも行動に移し、その結果から最善のやり方を模索し続けるしかないのです。

 部下の発想力や行動力を高めるには、失敗しても構わないとの前提で行動を起こすように発奮させる必要があります。大切なのは必ず見える化を伴って行動するように促す点です。ホワイトカラーの現場は仕事の進め方を見える化しないと改善点が具体的に分からないケースが多いからです。

 さらに部下には権限のグレーゾーンに踏み込んでもよいとしっかり伝えてください。枠を見せてそれを超えるように促すのです。そうしないと発想力が育ちません。

 最初、部下はグレーゾーンに踏み込むと叱られると萎縮しがちですが、上司が部下の発想の面白さや優位点などを褒め続けると、部下は徐々に従来の殻を破る発想力と行動力を身に付けます。やはり褒めて伸ばすのは大切です。

BMO法で新事業の可能性を測定

 管理者に注意してもらいたいのは、誰しもが全く新しい発想をできるのではないという事実です。発想という領域はアーティストのような感性と誰にも負けないほどの熱い想い、岩をも貫くような強い信念の3つが必要です。誰しもこれら全てを持っているわけではないのです。

 「好きこそ物の上手なれ」と言う通り、その仕事や「道」が心底好きでなければ、難しいと思います。どんな企業においても、その企業が提供する製品やサービスについて情熱を持ち、強い思いを持つ人によって新しい価値が生み出されていくのだと思います。

 さて、新市場の開拓や新規事業の構想、新しいサービスの計画など、部下がどんどん提案してきたとします。行動に移す前に大切なのが発想の将来性を冷静に見える化する作業です。

 ここで新事業参入の可能性を「新事業の魅力」と「組織の適性」という2軸で評価する「BMO(Bruce Merrifield & Ohe)法」を使います。新事業やユニークなビジネスあるいはサービスを素早く評価し、弱点を補完し、実証に向けた活動を促してくれます。

 BMO法は米ペンシルバニア大学ワートンスクールのブルース・メイフィールド教授が研究開発テーマの選択用に開発したものを、早稲田大学大学院経営管理研究科教授などを務める大江建氏が中心となって、日本の事業環境に合うように修正・進化させた手法です。数量的評価方法ですので直観を客観視するのに有効です。米商務省が産業政策の策定に使ったり、大手企業が研究テーマの選択や多角化戦略の決定などに活用したりしています。

 BMO法は2段階で進めます。まず「事業評価チャート」を作成します。新規事業の「魅力度」を数値化するグループと「適社度」を数値化するグループから成っています。

 魅力度は「売り上げ・利益の可能性」「参入後5年間の市場成長率(市場占拠率)の可能性」「競争の状況」「市場細分化によるリスクの分散」「業界再構築の可能性」「特別な社会的優遇状況」の6点をそれぞれ10点満点で評価します。

 一方の適社度は「必要資金が多額か、それに見合った資金力が十分あるか」「現有マーケティング力との適合性」「製造・オペレーション能力(現有する施設や人材、ノウハウ)の適合性」「現有する技術やサービス企画力の適合性」「原材料や部品、製品、情報(サービス業)の入手力」「事業に対して経営層のサポートが十分に得られるか」の6点をやはり10点満点でそれぞれ評価します。

 点数は新事業の発案者や実行者、支援者など全ての関係者が集まって議論します。評価のためのガイドラインが用意されていますので、慣れないうちはそれに沿って、第三者の視点で評価するとよいでしょう。

 点数は全般にわたって高(10~7)・中(6~4)・低(3~0)のいずれかを明確にすれば十分です。「8点か」「いや7点では」などと1点にこだわり過ぎないように注意してください。

 適社度は圧倒的な優位性があるという結論に達した場合、10点を超えた15点や20点をつけてもよいです。ガイドラインでは新規事業の成長を測る基準を5年としていますがもっと短くしてもよいでしょう。事業の魅力度と適社度を評価したら、それぞれの点数を合算して、120点満点の「事業度」として事業全体の評価点数とします。

図 事業評価チャートの例
図 事業評価チャートの例
自社の事業の立ち位置を数値で見える化する
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