B2Bの工具製造販売会社が、台頭するネット同業他社の攻勢に遭っている。ネット注文から翌日納品するビジネスモデルをまねるだけでは競争に勝てない。顧客のペインを解消し、デジタル施策で体験価値を高める分析が欠かせない。
「西部課長、工場用組み立て工具製造販売会社、蓮柏工具(れんはくこうぐ)の売り上げ拡大企画があるのですが、良いアイデアはありませんか?同社は最近、ネットを使った同業他社のスピード納品、低価格戦略に押され、売り上げが大幅に減少しています」
システム企画室の岸井雄介は休憩室でコーヒーを飲んでいる経営企画課長の西部和彦に聞いた。
「蓮柏工具か。注文は電話かファクスだし、データを使わず経験に基づく見込み製造、営業は対面中心、納品は注文の1週間後という、デジタル化には程遠いレガシー企業だな。今の時代にデジタル化に遅れているのは厳しいだろうな」
「そうなんです。組立工員をしていた蓮柏氏が昭和50年代に蓮柏工具を起業しました。創業当時、多くの工場では近隣の店から工具を個別に調達する必要があり面倒でした。そのことに問題意識を持った蓮柏氏が、全ての工具が1カ所でそろうと言われる会社を目指したわけです。このアイデアは当たり、その後急成長を遂げました。ですが近年は店舗を持たず、注文の翌日に納品するネット系工具製造販売会社『工具ドットコム』などの競合に押されています。デジタル化が必要です」
「でも何をするんだ?ネット勢と同じことをやっても厳しいぞ」
「野村部長代理からも同じことを言われました」
「新規ビジネス企画課の野村史郎部長代理か?」
「そうです。野村さんに蓮柏工具のデジタル化戦略について説明したら、『顧客価値の生かし方が弱い』って言われてしまいました」
岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFintech子会社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。
西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、事業への貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。
岸井は現在、新規ビジネス企画課と共同で、A銀行の商圏である北近畿にある工場用工具製造販売会社「蓮柏工具」の売り上げ拡大に向けた企画を検討している。