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外出自粛で多くの客を失った人気居酒屋店に、固定費が重くのしかかる。客が店に来なくても、看板メニューは提供できるのだろうか。高い商品価値を正しく客に届けることは、ウィズコロナ戦略として有効だ。

 「岸井、商圏にある店の経営状況はどうか?新型コロナ禍で客が来ない状況をどう支援するか対策はできたか」

 経営企画課長の西部和彦はテレビ会議システムの向こう側にいるシステム企画室の岸井雄介に聞いた。

 「西部さん、厳しいですね。今回のように人が用心して外出を控える状況下では、飲食店、特に居酒屋は大打撃です。北近畿の人気居酒屋チェーン坪田鶏場(つぼたけいじょう)でさえも経営危機を迎えています」

 「坪田鶏場か、地鶏炭火焼と地鶏鍋は絶品だよな。浴衣での接客も名刺を使ってのリピートの仕掛けも面白いけど、3密防止対策を徹底する中では厳しいよな」

 「そうなんです。坪田鶏場は地鶏の味の良さやオリジナルな接客の仕方、リピートの仕掛けで北近畿を中心に300店舗を展開してきましたが、今の状況では採算が取れません。店舗が多いために固定費も多く、店舗整理が必要かと思います」

 「店舗を減らしたら売り上げも落ちるがどうする?商品価値は高いのだから、ビジネスモデルの見直しが必要だと思う」

 「西部さんもそう言いますか?岩井さんからも同じことを言われました」

 「デジタルビジネス推進室の岩井伸室長?」

 「そうです。岩井室長に坪田鶏場の経営が厳しいので店舗を整理すると説明したら、『価値の届け方が甘い』って不満そうなんです」

 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。数年前にA銀行が買収したFintech子会社の企画部と兼務になり、グループ横断的検討プロジェクトのメンバーである。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画に長く在籍し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、それまでの実績が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、デジタルビジネス推進室と共同で、北近畿で創業し10年で急速に成長した北近畿地鶏の居酒屋チェーン『北近畿地鶏 坪田鶏場』の業績回復策を検討している。

 坪田鶏場は若者や会社員に人気の居酒屋チェーンで、北近畿に1号店を開業して以来、都市部の繁華街を中心に出店を続けて店舗を拡大、現在では300店舗を展開している。

 坪田鶏場の特徴は地鶏のうまさだ。北近畿山間部で経営されている複数の地鶏生産鶏場の出荷分をまるごと仕入れ、価格を下げながら、本格地鶏を提供する。特に「地鶏炭火焼」や「地鶏鍋」は超人気メニューであり、ほとんどの客がまず注文する。

 さらに最近では低カロリー、低糖質、高ファイバー(繊維質)のサイドメニューにも力を入れる。若い女性や健康が気になる中高年向けに、地鶏を使ったコラーゲンサラダなどを提供し、これらも人気メニューに育っている。

 しかし、新型コロナウイルス感染防止への措置による消費者の外出控えにより、店舗に来る客が極端に少なくなり、経営は急速に悪化している。店舗を拡大したために固定費負担が大きく、資金が厳しくなっているからだ。そこでメインバンクのA銀行が支援することになった。

図 地鶏居酒屋チェーンの概要、特徴と問題
図 地鶏居酒屋チェーンの概要、特徴と問題
客足が遠のく店舗が取るべきウィズコロナ戦略
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