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密集・密接・密閉という3密になりやすいリアルイベントが相次いで中止に。盆踊りに夏の集客をかける地域の事業者が苦境に陥った。客が安心してイベントに参加できる方法とは、デジタル活用にほかならない。

 「西部課長、今年度の『北近踊り』は中止になりそうで地元商店街は困り果てています。なんとか実施するアイデアはありませんか?北近畿地域の伝統盆踊り、北近踊りは全国的に有名ですが、コロナ禍でリアルの関連イベントが全て中止になれば、関係者はどうすればよいでしょうか」

 久しぶりに出勤しているシステム企画室の岸井雄介は、テレビ会議を通して経営企画課長の西部和彦に聞いた。

 「北近踊りも中止か……。編み笠での踊り歩きが圧巻な地域の大イベントだけどな。コロナ禍では客が来ないよな。地元の旅館やホテル、ゲストハウスなどの施設は大打撃だな」

 「はい。イベントは中止、客も来ない、宿泊もしないので地元経済は大きな影響を受けています。このままだと多くの事業者が廃業するしかありません。感染拡大が落ち着いたら客を呼び戻さないといけないので、オンライン予約システムを充実させようと思います」

 「でもな、コロナはいつまで続くか分からないぞ。定期的に客を呼べるビジネスモデルにするためにはデジタルを使った大きなビジネス変革、デジタルトランスフォーメーション(DX)が必要だと思う」

 「課長もそう思いますか。奥田さんからも同じことを言われました」

 「新規ビジネス企画課の奥田紗耶香担当課長か?」

 「そうです。コロナ禍の北近踊り集客策について説明したら、『デジタルの活用範囲が甘い』って言うんです」

 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A行が買収したFintech子会社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。

 西部和彦は37歳、A行でシステム企画を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、事業への貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、新規ビジネス企画課と共同で、A行の商圏である北近畿に江戸時代初期から続く伝統盆踊り「北近踊り」について、コロナ禍でも地域に来てもらえる方法を検討している。

 A行の商圏には多くの伝統美術工芸や伝統芸能が存在し、特に編み笠をかぶって着物で踊り歩く北近踊りは、全国的に有名な盆踊りとして現在まで地域の踊り手によって継承されてきた。

 最近では、北近畿以外にも広がり、東京のK商店街のお盆のイベントとしても定着している。さらに北近踊りを生で見たいという海外からのインバウンド客も順調に増え、地元に収益をもたらしていた。

 しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、人が密集、密着する北近踊りは、好ましくないイベントとして中止される方向である。これにより北近踊りでの集客を期待していた地元の事業者は大きな影響を受けることになった。北近踊り関係の収益構造は、北近踊り参加・鑑賞収入、旅館、ペンション、ゲストハウスやホテルなどの宿泊関係収入、お土産収入、観光施設の入場料や体験・参加型イベントの収入などである。これらの収入は激減する見込みだ。