気象の激甚化を背景に気象情報サービス大手が高度なデータ分析に乗り出した。資本と人材を潤沢に持たない小規模な既存プレーヤーにとってピンチだ。顧客参加型ビジネスモデルを採用し、予報精度を上げてサービス価値の向上を図る。
「西部課長、民間の気象情報サービス会社『キショウコム』の業績改善について、良いアイデアはありますか?最近、同業間の競争が激しく業績が悪化しています」
システム企画室の岸井雄介は休憩室でコーヒーを飲んでいる経営企画課長の西部和彦に聞いた。
「キショウコムって、気象情報サービスが自由化されたときからある老舗だよな。規模がさほど大きくないので競争が激化すると苦しいか?」
「そうです。キショウコムは1990年代に大手企業で気象予報研究をしていた研究者がつくった会社です。自由化の波に乗り急成長を遂げましたが、最近では競合が増えて売り上げも利益も下がり続けています」
「そうか。競争から抜け出すには、差別化が必要だぞ」
「課長もそう思いますか。下田さんからも同じことを言われました」
「新規ビジネス企画課の下田浩司部長代理か?」
「そうです。キショウコムの経営改善案を説明したら、『顧客の巻き込み方が甘い』と言って機嫌が悪いんです」
岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐だ。A銀行が買収したFintech子会社の企画部と兼務でグループ横断的検討プロジェクトのメンバーである。
西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。ITコンサルティング会社の出向経験を持ち、現在は経営企画課長を務める。
岸井は現在、新規ビジネス企画課と共同で、1990年代に北近畿地域で創業し、今や全国的に知名度があるキショウコムの経営戦略の見直しを支援している。
キショウコムは、個人向けと法人向けに天気予報や気温情報を提供する気象情報サービス事業を手掛けている。洗濯物が室内で乾く目安を示す「屋内干し指数」、屋内で熱中症になる危険度を示す「屋内熱中症危険指数」など、個人向けサービスの人気が高い。
しかし最近では豪雨や台風などによる甚大な被害が増え、資本力を持つ大手気象情報サービスが気象予報の精度を上げるためデータ分析者を増やし分析を高度化しており、同社のシェアは下降傾向だ。そこでメインバンクを務めるA銀行が支援することになった。
この検討を担当しているのが、新規ビジネス企画課の下田、そして岸井である。岸井は、現在のキショウコムの強み、顧客拡大策の状況などを分析し下田に説明した。