全4481文字
PR

地方の人気スポットだった寺院と門前町が国内外の参拝客や買い物客を失った。だがユニークな寺院グッズや体験はデジタル化しても大きな価値を持つ。その価値をネット販売やデジタル商材にうまく組み込めば、売り上げ拡大は可能だ。

 「西部課長、都築願常寺の売り上げ拡大企画があるのですが、何か良いアイデアはありませんか?願常寺はコロナ禍で参拝客や法要客が激減して、門前町である都築商店街の売り上げも減少しているんです」

 システム企画室の岸井雄介はオンライン会議でつないでいる経営企画課長の西部和彦に聞いた。

 「願常寺か。かつて市場があって今はグルメの街として有名な都築町の寺だよな。カフェレストランを直営したり、都会のコンパクト墓地を運営したりで人気だったけど、コロナ禍では参拝、法要客は減るよな」

 「そうです。願常寺は日本で最も古い歴史を持つ寺の1つで、全国的にも有名です。その門前町である都築商店街も200以上の商店や飲食店があって栄えていましたが、コロナ禍で買い物客が激減、売り上げも大幅に下がっています。売り上げを拡大させないと、歴史ある願常寺も都築商店街もじり貧になります」

 「しかし、コロナ禍では寺や商店街に客を戻すのは難しい。商品やサービス面での工夫がいるぞ」

 「課長もそう思いますか。銅面(どうめん)さんからも同じことを言われました」

 「新規ビジネス企画課の銅面悟志担当課長か?」

 「そうです。銅面担当課長に願常寺と都築商店街の売り上げ拡大について説明したら、『デジタル商材の価値に広がりがない』って不機嫌なんです」

 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFintech子会社の企画部と兼務になり、グループ横断的検討プロジェクトのメンバーでもある。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、事業への貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、新規ビジネス企画課と共同で、A銀行の商圏である北近畿に古くからある願常寺とその門前町である都築商店街の両方の売り上げを拡大させる企画を検討している。

 A銀行の商圏には多くの寺院が存在しているが、中でも中心部にある願常寺は、全国的に有名な観光スポットである都築町の大寺院として数百万人規模の参拝客や法要客を集めてきた。

 市場があった江戸時代より都築商店街は食の街として有名であり、願常寺に参拝する客は、食事や買い物で同商店街を使ってきた。15年程前からは外国人観光客も増え、願常寺参拝と合わせて商店街に来る客が急増した。