縮小傾向が続く産業向けに特化した消臭剤の成長に限界が来ている。単純に家庭用へと横展開する戦略では先行ブランドに勝てない。高機能で低価格という優れた特徴を生かし、新たな価値で市場開拓を狙う。
「西部課長、業務用消臭剤メーカー「白美消臭(はくびしょうしゅう)」の『ウルトラスメルノン』の横展開企画があります。私の実家は牧畜をやっているのでニオイが消えるウルトラスメルノンにはお世話になったのですが、農業や牧畜業は縮小しており、白美の今後は暗いんです。何か良いアイデアはありませんか?」
システム企画室の岸井雄介は食堂で昼食を取っている経営企画課長の西部和彦に聞いた。
「元気そうだな。今度は業務用消臭剤か。業務用消臭剤を横展開するのは厳しいだろうな」
「そうなんです。ウルトラスメルノンは、米国の化学メーカーで消臭剤を開発していた創業者が昭和40年代に日本に帰って販売し始めた業務用消臭剤です。当時、全国で農業や牧畜業が多く営まれ、農業肥料や牧畜で発生するニオイを消すために、ウルトラスメルノンは高い人気を誇っていました。しかしこうした産業が縮小するなか、白美の売り上げも下がり続けています。これをどうにかしないと未来はありません」
「でもな、横展開するっていうけど家庭用消臭剤は激戦区だぞ」
「課長もそう思いますか。山元さんからも同じことを言われました」
「新規ビジネス企画課の女性管理職の山元沙織課長補佐か?」
「そうです。山元さんにウルトラスメルノンの横展開について説明したら、『商品価値の使い方が弱い』って言われてしまいました」
岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFintech子会社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。
西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、事業への貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。
岸井は現在、新規ビジネス企画課と共同で、A銀行の商圏である北近畿で事業を続けている業務用消臭剤メーカー「白美消臭」の業績拡大に向けた企画を検討している。