全4589文字
PR

押し入れ用突っ張り棒メーカーの業績拡大が急務だ。ホームセンターには競合製品がひしめき合い、価格競争のレッドオーシャンに沈んでいる。だが機能強化ばかりの「作り手視点」を変えれば、価値は押し入れ以外にも広がる。

 「西部課長、老舗押し入れ突っ張り棒メーカー『松田生活工房』の売り上げ向上企画があるのですが、良いアイデアはありませんか?私が子供の頃は夕方のテレビCMで『ウルトラ突っ張り棒』がいつも宣伝されていました。しかし今はホームセンターで多くの種類の押し入れ突っ張り棒が売られており、価格競争で撤退メーカーも多くなっています」

 システム企画室の岸井雄介は食堂で昼食を取っている経営企画課長の西部和彦に聞いた。

 「今度は押し入れ突っ張り棒か……。市場が飽和し、価格競争が激しい時代に、今の戦略で商品を拡販するのは厳しいだろうな」

 「そうなんです。ウルトラ突っ張り棒は北近畿で銅製品を製造していた創業者が米国視察に行った際、『万能ポール』という製品にヒントを得て作りました。ヒットしましたが、最近ではホームセンターのプライベートブランドの低価格商品に市場を奪われ、松田の売り上げが下がり続けています」

 「見直すなら、作り手だけが想定する押し入れ活用に限定した価値ではなく、全体価値を考えた商品コンセプトが必要だよ」

 「課長もそう思いますか。丸山さんからも同じことを言われました」

 「新規ビジネス企画課の丸山絵里課長補佐?」

 「そうです。丸山さんに松田生活工房について説明したら、『作り手だけで作っている』って言われました」

 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFintech子会社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、事業への貢献が認められ経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、新規ビジネス企画課と共同で、A銀行の商圏である北近畿で50年ほど続く松田生活工房の業績拡大に向けた企画を検討している。

 松田のメイン商材は「ウルトラ突っ張り棒」である。押し入れの中をクローゼットとして使うための、重いアウター衣料を複数掛けても耐える強力な耐重量性のある突っ張り棒で、長年市場に選ばれてきた。

 昭和50年代には、創業者が日本の狭い住宅事情で突っ張り棒の需要はもっと大きくなると考え多くのテレビCMを打った。これが当たって突っ張り棒は全国的な知名度を得て、松田は業界のリーディングカンパニーとなった。

 しかし最近では、ホームセンターのプライベートブランドが低価格戦略で攻めており、多くの企業が撤退を余儀なくされている。松田の売り上げも右肩下がりで、A銀行が販売拡大を支援することになった。

 この検討の担当になったのが、新規ビジネス企画課の丸山課長補佐とシステム企画室の岸井である。岸井は、国内の押し入れ突っ張り棒市場を調査した上で、丸山に説明した。


 「丸山さん、ウルトラ突っ張り棒という商品の分析からスタートさせてください。松田は、北近畿で銅を使った製品を製造していた松田氏が昭和40年代に始めた生活用品メーカーです。松田氏は、銅製品の将来に不安を感じており、新しいビジネスのヒントに米国の大型小売店へ視察に行ったそうです。そこで売られていた住居用の『万能ポール』から押し入れ突っ張り棒のヒントを得て販売したら北近畿で爆発的に売れました。『押し入れをクローゼットに』のキャッチコピーが評判になり、テレビCMを全国で流したことで人気商品となりました。そこで全国の百貨店や地域の小売店を販路とし、安定したビジネスを展開してきました。しかし現在、市場は飽和し、ホームセンターのプライベートブランドがひしめき合っています。完全に価格競争に突入しており、市場はレッドオーシャンです。差別化には、さらなる機能強化や低価格が必要です」