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かつてどの店にもあったロングセラーのあめ商品に危機が迫る。健康志向に乗った低カロリー商品への転換は、古い顧客を失うリスクが高い。高品質の原材料に着目すれば、思いもかけない価値が見えてくる。

 「岸井、地域のあめ製造会社『ウマミ飴本舗』の業績が悪いんだって?今は糖質制限時代だから、甘いウマミ飴が売れないのも無理はないか……」

 経営企画課長の西部和彦はビデオ会議システムでシステム企画室の岸井雄介に聞いた。

 「西部課長、厳しいですね。ウマミ飴は甘さが不足していた戦後にヒットしてロングセラーになった商品です。しかし健康ブーム、糖質制限ブームの現代ではなかなか売れません。最盛期から6割も売り上げが落ち、取り扱う卸や小売店も減りました」

 「ウマミ飴は子供のころに良く食べたよ。甘いだけでなく、ややしょっぱい味だったよな。いつも祖母が買くれたけど、次第に食べなくなった」

 「ウマミ飴はかくし味にしょうゆを使った珍しい製法で、焦げやすい普通のしょうゆではなく、特別なしょうゆを作らせて完成させた和風のあめです。輸入キャンディーとは異なる強さでロングセラーになりました。しかし売れない状況では、ウマミ飴の製造をやめ、売れている健康のどあめなどに注力していくことが必要と思います」

 「岸井、売り上げが減ったとはいえ主力商品だし、健康系あめは他社との価格競争が激しい。オリジナルなウマミ飴を伸ばさないと未来はないぞ」

 「課長もそう言いますか?井野さんからも同じことを言われました」

 「デジタルビジネス推進室の井野雄大室長?」

 「そうです。井野室長にウマミ飴が厳しいので製造中止も考えると説明したら、『価値の転用が甘い』って不満そうなんです」


 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。数年前にA銀行が買収したFintech子会社の企画部と兼務になり、グループ横断的検討プロジェクトのメンバーである。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、多くの仕事を成功させた貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、デジタルビジネス推進室と共同で、北近畿地域で戦後の1950年代に創業したウマミ飴本舗のロングセラー商品「ウマミ飴」について販売拡大策を検討している。

 最盛期には全国のどの小売店にも置いてある定番商品だったが、あめの糖質カットがトレンドになり、ハーブ系が台頭するなどして甘塩っぱいウマミ飴は時代遅れとなった。

 ウマミ飴の特徴は材料の確かさだ。材料の砂糖は高級和菓子用で、しょうゆは無添加の国産大豆を使用、ウマミ飴専用に醸造したものだ。このため価格は他のあめよりも高く、販売が苦戦している原因の一つであった。

 健康ブームであめの材料が低カロリーの人工甘味料に置き換わっていった際に、ウマミ飴は今の材料でないと同じ味にならず、人工甘味料を使うことを断念した経緯がある。

 しかし売り上げが最盛期の半分になると製造コストを吸収しきれず、ウマミ飴本舗は材料のコストダウンで味を変えるか、製造中止にするかの決断に迫られた。そこでメインバンクのA銀行が支援することになった。

 この検討を担当しているのが、デジタルビジネス推進室の井野室長と岸井である。