全4464文字
PR

顧客が価値を認めない商材は長続きするビジネスにならない。特にコト商材を売るには顧客に経験価値を伝える必要がある。経験価値5項目分析テンプレートで顧客の心をつかもう。

 「聞いたよ、岸井。専務が発案した企画案件がうまくいっていないんだって。企画部長がひどく困っていたぞ」

 経営企画課長の西部和彦は休憩室でぼんやり外を眺めているシステム企画室の岸井雄介に声をかけた。

 「西部課長、企画部長が頭を抱えているのは『仕事能力と生涯収入の両方を伸ばすビジネス企画』の件です。当行は人生100年時代の商品・サービスとして『健康増進型金融商品』と『新しい個人向け教育ローン』を市場に投入しています。前者は毎年の健康診断の結果で数値が改善すれば、投資信託や外貨預金の分配金、利率が有利になる仕組みです」

 「後者は能力向上プログラム付きの個人融資だよな。毎年、能力評価の結果でスコアが上がっていれば、信用度が上がり貸付利率が下がる」

 「おっしゃる通りです。ところが前者はヒットしているのに後者は軌道に乗らず困っているんです。能力が上がれば昇進や昇給が期待でき、転職や副業も有利になると思います。収入増加の機会が増えるでしょう。良いコンセプトだと思うのですが…」

 「確かに良いコンセプトだと思うが顧客本位の商品やサービスになっているかな?」

 「課長もそう思いますか。実は山下さんからも同じことを言われてしまいました」

 「今回一緒に仕事をしているのはフィンランドの教育企業から転職してきた企画部の山下莉夏主任か」

 「そうです。山下主任に能力向上型自己啓発ローンの拡販策を説明したら『顧客本位になっていない』と言われてしまい…」


 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入行以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFinTech子会社F社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画の仕事を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、多くの仕事を成功させた貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、企画部と共同で仕事能力と生涯収入を伸ばす商品・サービスを企画検討している。A行は創業80年記念特別事業として人生100年時代の生き方を考えるプロジェクトを2年前から発足させ、各項目について検討してきた。

 検討に当たって重視したのは「健康寿命を延ばす」と「資産寿命を延ばす」の2点である。生命寿命と健康寿命の差である要介護期間を減らすことは重要だが、それだけでは老後資産が尽きてしまう恐れがある。資産を運用して増やし、豊かな老後生活を送れるようにする。それが資産寿命を延ばすことの主旨である。これら2つの寿命を延ばす商品やサービスの企画がA行には必要とされていた。

 具体的な商品として検討されたのが「健康増進型金融商品」である。これは毎年の健康診断結果で数値が前年より良くなっていれば分配率があがる投資信託や利率が上乗せされる外貨預金である。これはA行のヒット商品になっている。

 この結果に手応えを感じた専務が資産寿命を延ばす商品として「能力向上プログラム付き個人融資」を発案。半年前から試験販売に踏み切った。ところが周囲の期待に反し、販売実績は低調だった。そこで商品の見直しと販売拡大を厳命したわけだ。

 この検討担当になったのが企画部の山下主任とシステム企画室の岸井である。岸井は教育会社の事例や自己啓発セミナー、イノベーションをテーマとした学会や大学などにヒアリングをして調査し、山下主任に説明した。