文書を読み、理解するAI技術が急速に進化している。JCBはマニュアルの検索システム、仙台銀行は手書き文字認識の精度を高めた。契約書の内容チェックや専門文書の翻訳も可能になった。
契約書のチェックは法務担当者の仕事だ。そんな専門性の高い業務さえもAIがこなす。文書の内容を理解するようにAIが進化したためだ。
先進各社はAIを使って文書に関する業務を改革している。契約書のチェックへの活用は三菱鉛筆が実現した。JCBが導入したAIは社員の質問を理解し、大量の業務マニュアルから回答となる箇所を探し出す。仙台銀行は顧客が申込用紙に手書きした文字を自動認識する。田辺三菱製薬は薬事の専門文書を自動翻訳する。これらAIによるDX事例を見ていこう。
JCB
業務文書検索で8割正答
必要な文書がヒットしない――。文書検索のシステムにキーワードを入れても、目当ての文書や社内Webページがなかなか見つからなかった経験はないだろうか。文書検索の精度を高めるため、最新のAI技術を用いた検索システムの導入が始まっている。特に注目を集めているのが、米グーグルが開発したAI技術「BERT」だ。
BERT以前の言語モデルは前にある単語から後ろに続く単語を予測したり、文章の中で近い距離にある単語同士の関係を把握したりするだけだった。それに対してBERTは文章中の離れた場所にある単語同士の関係を把握したり、文脈を読み取って文章の各所にあるべき単語を予測したりする。
グーグルは2019年秋から「Google検索」にこのBERTを取り入れている。特に「日本人がブラジルに行くのにビザは必要か」のような自然文による検索で、文の意味をより正確に読み取れるようになったという。
JCBはこのBERTに注目した。同社はファイル数で数千から1万に及ぶ業務マニュアルを持つ。内容が多岐にわたり「マニュアルから知りたい情報を探すのに時間がかかる」(中西 洋介 イノベーション統括部企画グループ主事)。
業務マニュアルから必要な情報をすぐ見つけられるようにする目的で、2019年春から12月にかけてBERTを使った文書検索システムのPoCをした。
対象は主に調査部が使っているマニュアルだ。債権回収手続きのような専門性の高いマニュアルに加え、社内システムの使い方など汎用的なマニュアルもある。ファイル数は50で、紙に換算すると約700ページになるという。開発はAIベンチャーのAutomagiに依頼した。
開発では対象マニュアルの全文に加え、「追加学習データ」を2000件用意した。ここでいう追加学習データとは例えば「調査部によく寄せられる質問」と「答えが載っているマニュアルの箇所」のセットだ。このような追加学習データを2000件用意することで、検索精度の向上を狙った。
開発した文書検索システムは、検索結果をマッチング度合いが高いものから順に並べて表示する。ユーザーテストでは自然言語の質問文170件を入力して、それぞれで上位10番目までに適切なマニュアルの箇所が表示されれば正答と見なした。
テストの結果、正答率は8割だったという。今後JCBはさらに検証を重ねて投資判断を下す。中西主事は「社員1人が業務マニュアルを探す時間を1日10分短縮すれば、年間で40時間(2400分)ほどの短縮になる。ほぼ全員が業務マニュアルを見るので効果は大きい」と手応えを語る。