PR

現場でミスが起きると、ルール違反がなかったかにこだわる人がいる。そうした人には「ルールは絶対に正しい」という強い先入観がある。ルールは一度作って終わりではなく、常に見直すものという視点を持とう。

 会社には作業標準に始まり、社内規程に至るまで、様々なルールが存在する。監査などは既にあるルールと現場の実情を比較し、ルールから外れていることを問題視する。

 なぜなぜ分析を使った問題の原因追究でも、監査と同じように既存のルールと照らし合わせ、ルールから外れた行為を問題視する傾向が強い。ここで一度、考えてほしい。業務手順や社内規定を「絶対に正しい」とみなしてよいのだろうか。

 私は様々な企業で、なぜなぜ分析を通じてヒューマンエラーの原因追究を指導してきた。するとルールに反した行為だけに目が行き、業務に潜む危険性や業務の原理・原則に反した仕事のやり方には全く気づかないまま、原因追究を進めているケースに度々出くわす。次のような例を示そう。

誤ったデータを送った原因追究

 顧客Mから「自社のデータを基に、新たなデータを作成してほしい」との依頼を受けたとする。ところが誤って、顧客Mではなく顧客Nに基づくデータを送ってしまった。この問題をひも解いてみたい。

 なぜなぜ分析ではまず、問題が発覚するまでの業務の流れを時系列に整理するところから始める。これをフローチャートのように表したものを「いきさつフロー図」と呼ぶ。なぜなぜ分析の手法のなかでも、最も重要な作業の1つである。

 いきさつを確認しよう。顧客Mを担当するAさんは午前10時にBさんに「対象範囲のデータを作成して送ってほしい」と、メールで依頼した。同じような仕事を毎月10件ほどこなしているBさんは、いつもと同じように手順書(顧客データの作成手順)を見ながら、対象範囲のデータを作成した。作ったデータをBさんは正午にメールで、Aさんに送り返している。

 1時間後、AさんはBさんに、顧客Mに送るデータが彼らのものではなく、他社(顧客N)のものだったので、作り直して再送してほしいと電話で伝えた。Bさんは謝ったうえで、改めて正しいデータを作成。Aさんに顧客M向けのデータを送った。

 ここで問題の原因と再発防止策を考えるため、なぜなぜ分析をしてみたい。最初に一連の流れをいきさつフロー図にまとめる。そのうえで「顧客Mに顧客Nのデータが送られた」ことを事象とし、「なぜ?」を繰り返して再発防止策を出す。あなたなら、どう分析するか。

図 顧客データの作成手順
図 顧客データの作成手順
誤った顧客データを送信したときのいきさつフロー図
[画像のクリックで拡大表示]

 Bさんにヒアリングしたところ、顧客Mではなく顧客Nのフォルダを選んで作業を始めていた事実が判明。そこで再発防止策としては「フォルダを確認する」というルールの追加と、念入りに確認するための工夫を並べた。一見すると、再発防止策をうまく導き出せたように思える。

 だがこうして出てきた再発防止策に私は疑問を感じる。なぜなら、決められた顧客データの作成手順に照らして足りないルールや、ルールから逸脱しないようにする対策だけを考えているのが見え見えだからだ。

 私に言わせれば、「フォルダを確認する」というルールを追加するような再発防止策はNG。それはデータの作成現場を観察すれば、すぐに分かる。

図 ルールと照らし合わせるだけの原因追究をしてはいけない(その1)
図 ルールと照らし合わせるだけの原因追究をしてはいけない(その1)
問題が起きるたびにルールを追加するのか
[画像のクリックで拡大表示]
図 ルールと照らし合わせるだけの原因追究をしてはいけない(その2)
図 ルールと照らし合わせるだけの原因追究をしてはいけない(その2)
ミスが起こりにくい業務の進め方に変え
[画像のクリックで拡大表示]

 担当者はパソコンの画面で「フォルダを確認する」ことを、新たなルールとして追加したとする。だがこれでは第三者から見て、担当者がパソコンのどこを見ているのか判別できない。ルールを守っているのか分からないし、きちんと確認したという証拠も残らない。これでは再び「確認しなかった」という事象が発生してもおかしくない。再発防止策を考えるときは、担当者の動きにもっと踏み込んで、ミスの原因を突き止める必要がある。

 もう一度、いきさつフロー図を見てほしい。私なら図を見ただけで大きな問題に気づく。顧客の大事なデータを扱いながら、上司が絡まないまま、担当者間で作業が完結してしまっている。顧客データの作成手順やフローを抜本的に見直す必要がある。そのように発想できることが大切である。

 経営者や管理者は一度決めたルールを守らせることに執着する傾向にある。そうではなく、過去に決めたルールに潜む危険性を極力減らすため、常にルールを変えるという視点を持ち続けなければならない。再発防止策はルールを見直す重要な手段である。

小倉 仁志(おぐら・ひとし)氏
マネジメント・ダイナミクス 社長
1985年東京工業大学工学部卒業。デュポン・ジャパン(現デュポン)入社。1992年から日本プラントメンテナンス協会でトータル・プロダクティブ・メンテナンス(TPM)の指導に従事し、2005年に独立。2009年から続く「なぜなぜ分析 演習付きセミナー(実践編)」は毎回満席になるほどの人気ぶり。