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大手SIerはDX専門組織を新設・拡充し、顧客のデジタル化を後押しする。ユーザー企業との「共創」によって新製品やサービスの創出を目指す。そのための手段となるローコードやアジャイルといった開発手法も磨く。

 変革待ったなしのSI事業。その「次」のビジネスの鉱脈が見え始めている。組織も柔軟に見直し、従来型SI依存からの脱却を図る専業6社のSIの「ニューノーマル」を見ていく。

NTTデータ
年60件超のデジタル投資 「CAFIS」のDXにも挑む

(写真提供:NTTデータ)
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 顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)につながる案件の「目利き」と「育成支援」を担う――。そんな組織を4年前に設立したのが国内最大手のSI専業であるNTTデータだ。2017年7月に設立した組織「DSO(デジタル・ストラテジー・オフィス)」はその中心となる組織である。同社でDSOを担当する佐々木裕常務執行役員製造ITイノベーション事業本部長兼ビジネスソリューション事業本部長は、4年近くの試行錯誤を経て「(DSOが成果を上げる)シナリオのパターンが見えてきた」と語る。

 DSOはヘッドクオーター(本社や本部)がグループ内のデジタル案件に直接投資をして、強みとなる技術や製品サービスを育てる取り組みを推進している。佐々木常務執行役員が見いだした成功モデルは4つある。その1つが、ヘッドクオーターがグローバルアセット(資産)に投資し、海外グループ会社で投資を回収するモデルだ。例えば海外で展開している保険業界向けのBPaaS(クラウド型アウトソーシングサービス)事業「GIDP」が挙げられる。海外のグループ各社が個別に開発していた保険業務システムをクラウド共通基盤に統合し、各機能をマイクロサービス化することでBPaaSのサービス基盤を構築。2019年にサービスを始めた。これまで北米中心に展開していた事業を、南米やEMEA(欧州、中東、アフリカ)にも拡大しているという。

銀行システムのクラウドサービスも

 DSOは、グループ会社や事業部などが提案した新規事業に投資をする「ビジネスアクセラレーション(BA)」と、AI(人工知能)やサイバーセキュリティーなどの技術起点で投資をする「イノベーションアクセラレーション(IA)」という2つの施策に基づき、各事業や技術の立ち上げを財政的に支援する。「BAは年間15件、IAは同50件程度の案件に投資をしている」(佐々木常務執行役員)。

表 DSO(デジタル・ストラテジー・オフィス)による投資で成果を上げた事例
成功モデルを積み上げる(出所:NTTデータの資料を基に日経コンピュータ作成)
表 DSO(デジタル・ストラテジー・オフィス)による投資で成果を上げた事例
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 こうした成功モデルを通じて得た知見を基に、デジタル案件への投資を加速させている。その中でも、将来の成長の柱と見込まれている案件の1つが「Platea Banking」と呼ぶ銀行システムのクラウドサービスだ。

 オンボーディング(登録)やペイメント、レンディング、デジタルウォレットといった銀行業務の機能を、銀行サービスのソフト部品としてマルチクラウド環境で提供する。顧客企業はソフト部品を組み合わせることで、素早く銀行サービスを始められる。欧州と南米をターゲットに2020年度にサービスを開始した。

CAFIS事業をデジタル化

 DSOの案件とは別に、各事業部が既存事業のデジタル化にも取り組む。代表例が同社の決済インフラ「CAFIS(キャフィス)」のデジタル化を進める「Digital CAFIS」のプロジェクトだ。

 CAFISは約120社のクレジットカード会社や約200社の金融機関と、100万店以上の加盟店を結ぶ日本最大級の決済インフラだ。電子マネーやQRコード決済といったキャッシュレスサービスへの入金(チャージ)などの役割も担う。EC市場の拡大やキャッシュレス決済の普及を背景にCAFISの月間トランザクション量は増えており、2019年度には9億件を超えた。カード会社に加え、通信事業者や流通業、鉄道といったさまざまな業種の企業がキャッシュレス市場に参入している。

 NTTデータの栗原正憲ITサービス・ペイメント事業本部カード&ペイメント事業部長は「顧客接点を獲得する手段としてキャッシュレスが拡大している」と分析する。こうした動きに対応するため、Digital CAFISが開発に取り組むのが加盟店向けの「Omni Platform」だ。2021年10月の公開を予定する。実店舗とオンライン決済の両方に対応した決済代行サービスなどの機能を、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型で提供する。クレジットカードを含めた各種決済や顧客管理、精算管理、取引管理といったキャッシュレス決済に関わるさまざまな機能を、マイクロサービスとして実装している。

 実店舗とECサイトの両方を持つ企業は、各チャネルで個別の決済システムを導入しているケースが多い。このような場合、顧客の購買履歴を一元的に管理するにはCRM(顧客関係管理)などによるひも付けが必要になる。決済システムをOmni Platformに統一すればこうした仕組みが不要になり、現場の負荷軽減につながるという。栗原事業部長は「ECサイトと実店舗の購買情報が同じシステムで処理されるので統一的に管理できる」と話す。