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しがらみの多い大組織でも多様性を受け入れた働き方改革は待ったなしだ。本連載はSOMPOホールディングスのIT子会社2社を実例にその進め方を解説する。新型コロナ禍で突然始まったテレワークも取り組み次第では改革の糸口になる。

 システム開発の現場が元気になり、自信を取り戻す――。このテーマの下、これまで3年にわたり「現場を元気にするチーム運営術」「現場を元気にするDevOps 2.0」「現場を元気にする組織改革術」「現場を元気に!カブコム現場改革の軌跡」を執筆してきました。

 筆者は現場改革を支援するコンサルタントであり、その軸に「TMS塾」を据えています。トヨタ自動車の生産方式(TPS)やそのマネジメントを基にした「TMS(トヨタ・ウェイ・マネジメント・システム)」を応用して、現場が自ら考えて自律的に行動できるよう支援する中核人材を育てる「塾」です。

 今号からは今まさに筆者が現場改革を支援している、SOMPOホールディングスのIT子会社、SOMPOシステムズとSOMPOシステムイノベーションズにおける取り組みを詳解します。働き方と多様性の拡充は大企業でも待ったなしの状況です。大企業でいかに改革を進めるかを2社の実践例を通してお伝えできればと思っています。

 ただ、具体的な取り組みの解説は次回からとし、第1回はテレワーク・在宅勤務の話題を取り上げます。新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言を受け、規模の大小や業種業界を問わず、準備や試験運用も十分にできないままテレワークを強制的にスタートさせた企業も多いのではないでしょうか。

 筆者が実感したのは組織改革を実践できていればテレワークにすぐにシフトできるという点でした。

「ライブ感」を演出

 SOMPOシステムズとSOMPOシステムイノベーションズは2019年から「アジャイルワークスタイルへの変革」「活気ある現場への変革」を目指してTMSから派生した塾活動を実施しています。名称は「チームビルディング塾(以下TB塾)」で、塾は1期を約3ヶ月間で運営しています。

 SOMPOシステムズの東京・立川事業所でTB塾の第3期の中盤から終盤に入った2020年3月ころ、政府から在宅勤務の要請が発せられました。

 TB塾の基本は「現地・現物」です。全塾生で部門の現場を訪れ、改善活動の状況をその目で見ます。そして全員参加で改善を進めます。

 第3期の塾生の約半数は第1期や第2期の参加者や現場改善を間近で見ていた社員でした。そのため塾の立ち上がりは早く、中盤で塾生の主体性やリーダーシップが育ってきて、自ら考え行動できる現場も増えていました。

 ここまで進めば塾の環境が変わっても講師との関わり方さえ誤らなければWebベースに移行できる。筆者はそう考えて事務局と相談し、Web会議システムを使って塾生が遠隔から参加するスタイルに切り替えました。2020年3月のことです。

図 SOMPOシステムズにおけるWeb会議システムを使った「遠隔」塾
図 SOMPOシステムズにおけるWeb会議システムを使った「遠隔」塾
リーダーシップが育ってくると現場改革は遠隔でも可能に(画像提供:SOMPOシステムズ)
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 とはいえ対面ではない環境は初めてです。まずは塾進行の足並みを合わせる基準が必要と考え、今後の塾の時間割を詳細に計画し、タイミングを明確にしました。さらにTB塾内での作業チーム(今回は3チーム)ごとに他チームから干渉されずにディスカッションできる環境も用意しました。

 具体的にはWeb会議システムにバーチャルな会議室を、講師(筆者)がいる全体向けで1部屋、チームごとで3部屋、合計4部屋設けました。塾の進行に合わせて、塾生はその時々で必要な会議室に入り直すようにしました。部門の現場は塾の前にあらかじめ写真を撮っておき、それを共有して状況を確認したり議論したりしました。

 筆者は遠隔開催について「ライブ感」の演出を工夫しました。塾や研修においては、生身の人間が相対することで生じる「場の作用」が学びの質を左右します。今後VR(仮想現実)技術が進歩・普及すれば遠隔でも「場の作用」を手軽に再現できると期待していますが、現時点のWebを使った遠隔塾では一工夫必要でした。

 単に講師の画面を塾生のパソコンに共有するだけではライブ感は出せません。どうしたかというと、リアルの塾と同じように、筆者は塾を開く部屋に赴き、プロジェクターで資料を投影し、普段と同じように解説しました。そしてその様子をパソコンのカメラで撮って塾生に配信しました。

 当然、プロジェクターが映す資料が見えにくくなるので、あらかじめ塾生に資料を送信しておきました。ただ資料を配布・共有するタイミングは開催当日の開始直前としました。どんな理由かは読者の方も考えてみてください。ヒントは集中・真剣です。Web会議システムを使うと良い副産物があると分かりました。全ての様子を録画できる機能を使って、復習に役立てたり、ライブラリーをほぼ自動的に準備したりできたからです。

 TB塾における遠隔開催の第2回ではWeb会議システムの使い方を改善しました。具体的には塾として用意するのは1つの部屋だけにして、グループごとの議論が必要な場合は、参加者同士を個別グループに分けられる機能を使うようにしたのです。

 チーム分の部屋を用意したり塾生が部屋を移動したりする手間を省けました。絶対にこれがよいと考えず、臨機応変に使いこなし、改善していく姿勢が大切です。