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AIのビジネス活用において数理最適化の重要性が高まっている。現場や経営で必要とされる制約条件を考慮できるからだ。成果を得るための意思決定においてさまざまな分野で活用され始めている。

 今回は「数理最適化」の技術領域とそのビジネス活用について紹介する。

 筆者らが数理最適化の案件を顧客に提案する際、「数理最適化はAIなのか」「数理最適化は昔からある手法ではないか」などとコメントされるケースが少なくない。実際、数理最適化はこれまでに研究され、適用されてきた手法である。ディープラーニング(深層学習)が大流行し、第3次AIブームが巻き起こった2012年よりも歴史のある分野だ。

 深層学習を含む機械学習の活用が一般的になりデータがますます重要になっている現在、機械学習が出力した結果の活用と言う観点でも数理最適化の注目度が高まっている。

 実際、業務にAIを組み込んで結果を活用する場合、数理最適化は機械学習や深層学習に続くプロセスに組み込まれることも多い。

 機械学習はさまざまなデータから状態を認識して対象を「分類」したり、過去のデータから将来を「予測」したりすることが得意である。

 数理最適化はこうして得られた分類や将来予測を基に、人が試行錯誤したり、ビジネスに関する意思決定をしたりすることを可能にする。これによって初めて機械学習を活用した「成果」を得られる。世の中の成果を出せていないAI活用やPoC(概念検証)止まりの事例は業務まで踏み込んでおらず、成果を得る意思決定ができていないケースが多くあるように思う。

試行錯誤で意思決定を実現

 現実の問題は複雑な制約や無数の選択肢であふれている。例えば、アルバイトのシフト調整を考えよう。

 そこには「連続勤務数や残業などのルールを順守する」「繁閑を考慮したシフトにしたい」「Aさんは土日には入れない」など、さまざまな制約がある。さらに、「コストを最安にしたい」「業務を平準化したい」といった経営やマネジメント側の視点が入るかもしれない。

 これらを人間が試行錯誤して毎日のようにシフトを考えていたら、大変な労力となる。ここでAIと数理最適化を活用すれば、ほとんどが短時間で最適な答えを出せる。

 将来の繁閑を予測し、それに合わせて体制を組みたいニーズもある。繁閑を機械学習で予測し、その業務量を入力することになる。この予測を運用し精度を高めることができれば、現場では業務の平準化、経営面ではコスト面のメリットが出てくるわけだ。

 これらを踏まえ数理最適化を言い表すと「現実問題を数式で定義し、制約条件を満たす解の中で、目的関数を最大または最小にする手法」となる。

図 データ活用、機械学習、数理最適化のアプローチの違い
図 データ活用、機械学習、数理最適化のアプローチの違い
数理最適化の注目度が高まる
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