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熟練担当者との二人三脚が重要

 こうした複数のAIモデルを用いたシステムを利用し、試運転を実施した結果、従来に比較して高い収益性を実現する運転計画を見いだせた。

 機械学習と数理最適化の組み合わせは、データサイエンティストの力だけでは実現しない。業務に詳しいベテランやノウハウを保有する担当者との、二人三脚が必要だ。プロジェクトを実施すると「暗黙知だったノウハウが明確になった」「ベテランの退職も控える中、技能伝承につながった」と評価されることが多い。

 数理最適化のモデルにはさまざまなノウハウや制約事項を実装する必要がある。筆者らのプロジェクトの経験からすると、そうした技術力やノウハウを持つ人でないと、モデルが出した予測が本当に良い解かどうか判断するのが難しい。「何か違和感がある」「私だったらもっと違った答えを出す」と言うフィードバックはとても貴重だ。隠れた暗黙知や考慮すべきデータがまだ存在している可能性が非常に高い。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進において「技術力が高いベテランになかなか協力してもらえない」「退職間近でDXに乗り気でない」といった課題を聞くことは少なくない。そうした高い技術力のある人が社内や組織内にいる今、まさに協力を得て取り組まないと手遅れになる。日本の強みである高い技術力、きめ細かい運用のノウハウをしっかりデジタルに変換していくことが日本の産業におけるDXでは欠かせない。

図 制約条件を洗い出す手順の例
図 制約条件を洗い出す手順の例
トイモデルの作成が欠かせない
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不確実性ある最適化の一般的手法

 今回は入力に予測が含まれる不完全な情報下の最適化の一例を挙げた。

 しかし予測は大きく外れることがある。「外れた予測」から導かれた最適化の結果はどの程度役に立つのだろうか。これは問題に大きく依存する。ダムのように、社会に与える影響が大きく自由が利きにくい対象では、この論点はしばしば重要になる。最後にこうした点を整理したい。

 不確実性を含む最適化問題へのアプローチは盛んに研究されている。

 例えば、予測誤差の上限を仮定し、その範囲における最悪ケースで最良になるような意思決定を行う「ロバスト最適化」がある。

 また「確率制約付きの確率最適化」では、予測をそれぞれの事象が起こる可能性の確率分布として与える。そのうえで特定の制約が十分に高い確率で満たされる条件下で、目的関数を最適化する。

 このようにさまざまな分類が存在するが、現実的な時間でそれなりの質の解を見つけることが難しい場合は多い。そのため予測が当たるか外れるかは重視せず、1か0の決定的問題の設定を工夫するなどしたうえで、運用で解決するなどの判断が求められることもある。これらも参考にしていただけたら幸いだ。

長谷川 大貴(はせがわ・だいき)
エクサウィザーズ 執行役員 西日本事業部/エネルギー環境企画部 事業部長
京都大学工学研究科修了後、大手電力会社、経営コンサルティングファームを経て現職。西日本およびエネルギー業界を中心に、データ活用を基にした新規事業の創出、AIのPoCから実装など幅広いプロジェクトを多数先導している。
石丸 裕吾(いしまる・ゆうご)
エクサウィザーズ 技術統括部 数理最適化グループ エンジニア
京都大学理学部卒業後、キール大学数学科で修士取得。専門は離散最適化。エクサウィザーズでは電力会社の発電計画や蓄電池運用の最適化、物流・飲食業のシフト最適化など多数の最適化案件に従事。最適化技術を応用した人員配置プロダクトの開発にも参加した。