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IT人材の雇用・人事制度にジョブ型を取り入れる動きが加速している。富士通、日立製作所、NECに加え、KDDIやKADOKAWAのIT子会社もかじを切った。管理職から一般社員、そして新卒社員へと、社員が自分で仕事を選ぶ時代が近づいている。

 国内のIT大手3社がジョブ型雇用制度にかじを切った。富士通は2020年4月、国内のグループ会社を含む管理職以上の約1万5000人の幹部社員に同制度の運用を始めた。労働組合との協議を経て一般社員にも適用する計画だ。

 日立製作所は管理職を対象に部分的に導入していた同制度を2021年4月から一般社員にも適用した。2024年度中の完全移行を目指す。

 NECは2021年度にジョブディスクリプション(JD)を作成し、2022年4月から管理職向けに運用を開始する。同制度への本格移行に向けて、2021年4月から管理職を対象に成果主義を強めた新たな人事評価制度を導入した。雇用制度の変革という大波がIT業界にも押し寄せている。

コロナ禍もジョブ型を後押し

 IT大手各社がジョブ型雇用に本腰を入れる背景には、ビジネス環境や雇用市場の変化がある。現状の雇用制度は人に業務を割り当てるメンバーシップ型。新卒の一括採用と終身雇用を基本とし、社員に様々な業務を経験させて総合的に仕事ができるゼネラリストを長期で育成する。

 しかし顧客企業の本業の改革に踏み込むデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するには、高度IT人材を外部からも獲得しなければならない。しかも現在の日本の労働市場は欧米などに比べて流動性が低く、人員の獲得や調整が難しい。従来の日本型雇用制度では、グローバル競争に勝てないとの懸念が広がっている。

図 雇用制度の改革が求められる背景と具体的な取り組みの例
図 雇用制度の改革が求められる背景と具体的な取り組みの例
IT各社が移行を進めるジョブ型雇用
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 2020年春からの新型コロナウイルス禍もジョブ型制度の導入の動きを後押しした。テレワークが広がったことで、社員の職務を明確にせず時間で縛る従来の働き方が難しくなっている。時間や場所に縛られない柔軟な働き方を実現するためにも、ジョブ型を導入しようとの機運が高まってきた。

1万5000ポストのJDを作成

 富士通はジョブ型雇用の本格導入に当たり、まずは2020年4月に国内のグループ会社を含む管理職以上の幹部社員を対象にジョブ型に基づく報酬体系を導入。職責ベースの報酬体系に移行した。具体的には11から15、その上はVPとSVPという7段階の職責レベル(FUJITSU Level)を設定。各レベルの月額報酬を定めた。従来のような報酬のレンジはなく、レベル別の定額制だ。つまり幹部社員は就いたポスト(役職や肩書)によって具体的な報酬金額が決まる。

図 富士通が実施した幹部社員の報酬体系の変更
図 富士通が実施した幹部社員の報酬体系の変更
職責に基づく定額に(出所:富士通の資料を基に日経コンピュータ作成)
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 従来の報酬体系は「M(課長・部長クラス)」、「GM(統括部長クラス)」、「GP(本部長クラス)」という3段階の職能資格で月額報酬のレンジを定めていた。人に資格を付与し、それぞれの資格に応じて報酬を決めるやり方だ。

 ジョブ型の職務定義では2021年4月までに、「ロールプロファイル」と呼ぶJDのひな型を作成した。例えば研究開発やシステムエンジニア(SE)、アカウント営業、マーケティングといった職種(ロール)を横軸、職責レベルを縦軸として、各ロールのそれぞれの職責レベルに求められる能力や役割などを記述する。

 さらにロールプロファイルをベースに、幹部社員1万5000人のポストごとのJDも作成した。富士通の森川学CHRO(最高人事責任者)室長は「各ポストの役割や責任範囲などをより詳細に記述したものだ」と説明する。

 つまり1万5000人分のJDを作成したことになる。内容はポストにひも付くもので、異動などで社員が入れ替わっても書き直さない。ただし、これらのJDはあくまで「AS IS(現状)」を表したものであり、今後は「TO BE(あるべき姿)」に向けて更新していく。

 同社はジョブ型制度で内部人材の流動性を高めるために社員の自発的なキャリア形成を促す取り組みも進めている。米ユーデミー(Udemy)が運営する教育クラウドサービスを導入して、人工知能(AI)やアジャイル、セキュリティーといった先端技術や経理、財務会計、プレゼンテーションなど幅広い分野のビジネススキルを学べるようにした。森川室長は「社員が自らキャリアを考え、知識や技術を身につけて上位のポジションにチャレンジする流れを推進している」と話す。

 社員が自分の意志で新しい仕事にチャレンジできるポスティング制度も大幅に拡大した。富士通グループ全体に募集ポジションを公開して、グループ全社員が応募できる仕組みだ。常時、200~300件もの求人票をイントラネットに掲載しているという。

 同社がジョブ型制度にかじを切る転機は、2019年の時田隆仁社長就任だ。時田社長は就任後の同年9月に開催した経営方針説明会でIT企業からDX企業への転身を表明し、グローバルで人材を活用しやすいジョブ型雇用の導入が必要と訴えた。

 同社は欧米などの子会社にはジョブ型制度を導入していたが、国内はメンバーシップ型のままだった。日本や海外の各リージョンで完結するビジネスが多くを占めていたころは大きな問題はなかった。ただ、グローバル化によって国やリージョンをまたいだビジネスが増え、柔軟な人員配置が難しいなど弊害が目立ち始めたという。「グローバルビジネスを推進する際に、人事制度の違いが障壁になってうまく進められないことを経験した」(森川室長)。

 そこで時田社長の号令下、グローバルの人事制度統一に向けてジョブ型の本格導入に着手した。人事制度はビジネスを停滞させるものではなく前進させるべきと考え、ジョブ型が1つの有効な手段と判断したという。