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 楽天モバイルの攻勢がすさまじい。まず2021年1月に発表した新料金。1回線目を対象に月間データ通信量が1ギガバイト以下の場合は無料とした。1年間無料キャンペーン終了後に懸念された解約ラッシュを回避すべく手を打った。累計契約申込数は2021年4月時点で390万件を突破した。

 2021年3月には楽天グループが日本郵政との資本業務提携を発表した。全国に約2万4000局ある郵便局内のイベントスペースを活用し、楽天モバイルの申し込みカウンターを設けて顧客獲得につなげる。さらに日本郵政や中国テンセント子会社などを引受先とした第三者割当増資で2423億円を調達し、基地局整備などに充てるとした。

 そして2021年4月22日に発表した米アップルのiPhoneの販売開始である。大手3社を切り崩すのは容易ではないが、怒涛の攻勢を見せている。

厳格なアップルに異変?

 楽天モバイルのiPhoneの販売開始について、競合他社は「交渉に動いていることを認識していたので特段の驚きはなかった」(幹部)とする。ただ楽天には失礼ながら筆者はもう少し先だろうと想定していた。提供エリアや通信速度などの観点でインフラが十分に整っているとは言いがたい。体験価値を重視するアップルがやすやすと卸すはずがないと考えていたからだ。

 さらに驚いたのは、楽天モバイルがiPhoneの取り扱いに関する発表会を開いたことだ。アップルは自社製品の取り扱いについて、とにかく厳しいことで知られる。例えば店舗ではiPhone専用の売り場を設けなければならず、他社の端末と混在した展示はご法度。携帯大手各社が発表するリリースの文面まで統制されている。

 それがどうだろう。4月22日の記者会見では、楽天モバイルの河野奈保常務執行役員兼CMO(最高マーケティング責任者)が登壇。約20分と短い記者会見のうち、8分ほどを割いてiPhoneの取り扱いについて説明した。これまでもiPhone新版の店頭発売イベントでは幹部が登壇することはあったが、記者会見は異例のことだ。iPhoneの取り扱いの発表については大手3社ともリリースの配布だけだった。

 iPhoneを巡っては、これまで型落ちだけを取り扱っていたワイモバイルも最新版「iPhone 12」「iPhone 12 mini」の販売を2021年2月に始めた。取り扱いのハードルが下がっているのは間違いなさそうだが、楽天モバイルの取り扱いについては様々な臆測が流れる。

 その1つが官邸や総務省の圧力。競合他社からは「楽天への肩入れが露骨すぎる」といったぼやきが出ている。2021年4月14日に楽天モバイルへの5G(第5世代移動通信システム)向け周波数の追加割り当てが決まったが、審査基準が楽天モバイルに有利になっていたとの指摘が多い。日本郵政との資本業務提携についても官邸や総務省の後押しを受けた動きと見る向きが少なからずあり、iPhoneの取り扱いもそうだろうというものだ。

 2021年2月1日に施行された「デジタルプラットフォーム取引透明化法(特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律)」では、経済産業省がアップルと同社子会社のiTunesを規制対象に加えた。両社は「アプリストアの運営事業者」としての指定なので直接的には関係ないが、楽天モバイルによるiPhoneの取り扱いを拒めば市場支配力の高さを利用した優越的地位の乱用などと新たな横やりが入りかねない。ここでも官邸の関与が取り沙汰される。

 臆測はさておき、楽天モバイルは今回、iPhoneの取り扱いという重要なピースを手に入れた。残る課題はインフラの拡充とサポートの改善だ。同社にはさらなるまい進を期待したい。

榊原 康(さかきばら・やすし)
1996年日経BP入社。システム構築関連の雑誌を経て、2005年以降は通信業界の動向を中心に追っている。著書に「キレるソフトバンク」「NTT30年目の決断」(いずれも日経BP)など。