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 総務省は通信市場における公正な競争環境整備に向けた有識者会議を立ち上げ、2020年12月から議論を始める。NTTがNTTドコモの完全子会社化を表明し、これに危機感を抱いた競合他社が議論の場を求めていたことに対応したものだ。

 NTTによるドコモの完全子会社化を巡っては、1992年のドコモ分離や1999年のNTT再編の当時とは市場環境が変わったとして、武田良太総務相や公正取引委員会の菅久修一事務総長が容認する姿勢を示している。完全子会社化自体は止められないとしても、競合他社は議論を通じて新生ドコモへの規制強化を要望していく考えだ。

最大の焦点はNTTコムの扱い

 もっとも、競合他社は攻め手が弱い印象を受ける。KDDIとソフトバンク、楽天モバイルの3社は11月11日に合同記者説明会を開き、ドコモの完全子会社化は「NTTグループの一体化や独占回帰につながる」と強く訴えた。ただ、その根拠の多くは「今後、ドコモとNTT東西の一体化が進む」との想定に基づいたものだった。

 ドコモとNTT東西の一体化が絶対に許されないのは業界の常識。この点を持ち出して反論をしていたところに苦しさを感じた。「表面上は公平性が担保されているが、NTT東西がドコモに優位な仕様を採用したり、NTTグループの利益最大化を優先して光回線の料金が高止まりしたりする可能性がある」といった指摘は心情的には理解できるが、NTT東西は現状でも厳しい規制を課せられている。さらなる規制強化の論拠には弱い印象である。

 総務省の有識者会議で議論となりそうなのが、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の扱いだ。NTTはドコモの完全子会社化を発表した際、NTTコムのドコモへの移管などを検討するとしたからだ。競合他社は「ドコモとNTTコムが一体化すると巨大な市場支配力を有することになる。禁止行為規制をしっかりと強化していかなければならない」と主張する。

 禁止行為規制とは「通信設備の相互接続で知り得た情報の目的外利用」や「自己の関係事業者に対する料金などの優先的な取り扱い」などを禁じた規制のことだ。ドコモは禁止行為規制の対象であり、NTTコムと一体化するならば規制をさらに強化すべきだと競合他社は考えている。NTTは「NTTコムまで禁止行為規制がかかるのは避けたい」として一体化ではなく、連携にとどめる考えも示しており、その場合の扱いがどうなるかが焦点になる。

 有識者会議の議論はNTTが一方的に攻め込まれる展開を当初予想していたが、必ずしもそうなるとは限らない。「ドコモが(営業利益でKDDIとソフトバンクを下回る)3番手に転落したのは歴史的な敗北。これまでNTTを縛り上げてきたからこその結果であり、NTTだけを縛る理由は薄れつつある。(光回線などの)固定通信市場で設備競争を半ば放棄している競合他社の主張は説得力に欠ける」(業界関係者)との指摘がある。

 この前提に立つと、ドコモへの禁止行為規制を緩めたり、禁止行為規制の対象をドコモだけでなくKDDIやソフトバンクに広げたりする展開も考えられるという。前者はさすがに競合他社の反発が必至だが、後者は格安スマホを展開するMVNO(仮想移動体通信事業者)や新規参入の楽天モバイルを援護する観点で十分にあり得る気がしている。KDDIとソフトバンクがNTTを攻めあぐねれば、巡り巡って自らの首を絞める結末も考えられそうだ。

 総務省の有識者会議は具体的な議論に先立って、関係各社に公開ヒアリングをする予定だ。まずはNTT、ドコモ、KDDI、ソフトバンクがどのような主張を展開してくるかに注目したい。

榊原 康(さかきばら・やすし)
1996年日経BP入社。システム構築関連の雑誌を経て、2005年以降は通信業界の動向を中心に追っている。著書に「キレるソフトバンク」「NTT30年目の決断」(いずれも日経BP)など。