米グーグルから独立した成層圏通信事業者の米ルーンは推定企業価値が10億ドル(約1100億円)を超える「ユニコーン」だった――。こんな事実が2019年4月のソフトバンクによる同社への1億2500万ドル(約140億円)に上る出資で明らかになった。グーグルの新規事業は巨額の赤字を垂れ流す一方で、膨大な企業価値を生み出している表れだ。

 ルーンは高度2万メートルの成層圏に飛ばす気球を無線基地局として運用し、地上に基地局を整備しづらい地域にインターネット接続サービスを提供する事業者だ。2011年にグーグルの研究機関「X」のプロジェクトとして始まり、2018年に独立した会社となった。2019年中に初めての商用サービスをケニアで始める予定だ。2019年4月25日にはソフトバンク子会社で同じく成層圏通信を手掛けるHAPSモバイルとの資本提携を発表した。

 「完全なマイノリティー(少額出資者)だ」。ソフトバンク副社長兼CTO(最高技術責任者)とHAPSモバイルの社長を兼務する宮川潤一氏はこう語る。140億円という巨費を投じても、ルーンに取締役を派遣することすらかなわなかった。加えて宮川副社長は「グーグルはルーンに数百億円(数億ドル)の上の方の資金を投じているが、それよりずっと上の企業価値が既についている」とも証言する。これらを総合すると、ルーンに10億ドルを超える企業価値がつけられているのは間違いなさそうだ。

 ルーンの何がすごいのか。宮川副社長は3つ指摘した。AI(人工知能)を活用したフリート(機体)管理システム、SDN(ソフトウエア・デファインド・ネットワーク)をはじめとする通信技術、そして「空のビッグデータ」だ。

 フリート管理システムとは、ルーンが運用する気球の運行を管理するものだ。風任せで移動する気球の動きをAIが先読みし、気球上の無線基地局がカバーできる通信範囲の変化を予測する。その上で次はどこに気球を射出すべきかをAIが判断し、途切れない通信サービスを実現するという。

 SDNは移動し続ける無線基地局や地上側の基地局を束ねるために使う。

 分かりづらいのがルーンが持つという「空のビッグデータ」だ。一口に成層圏と言ってもそこには多数の異なる空気の層があり、風向きは層によって異なる。ルーンはそうした空気の流れを全部知っているという。「世界中の気流データを持っている」(宮川副社長)。動力を搭載しない気球は本来自由に移動できない。しかし空気の層によって異なる気流の向きが分かれば、気球の高さを調整するだけで、気球の動く先をある程度コントロールできる。「ルーンが気球をケニア上空にとどめておけるのは、彼らが空のビッグデータを持っているからだ」(同)。

苦手な部分もグーグルと同じ

 一方で宮川副社長は「ルーンは各地の通信事業者との交渉を苦手とするというより、やる気がない。ITU(国際電気通信連合)の会合にも我々が言うまで参加してこなかった」と指摘する。世界中で通信サービスを提供するなら、様々なステークホルダー(利害関係者)との調整は欠かせない。しかしルーンはそれを苦手としており、提携したソフトバンクに任せるという。

 政府機関や地元企業、住民などステークホルダーとの調整を苦手とするのは、グーグルなど米アルファベット傘下企業に共通の弱点でもある。AIを使って様々な産業や生活シーンを変えようとの野望を抱くアルファベットだが、ステークホルダーと連携できなければ、優れた技術も宝の持ち腐れになる。技術だけでは解決できない問題をクリアすることが、成否を分けるきっかけになるだろう。

中田 敦(なかだ・あつし)
中田 敦(なかだ・あつし) 日経xTECH/日経コンピュータ副編集長。1998年日経BP入社。2015年4月から19年3月までシリコンバレー支局長。著書に「クラウド大全」(共著)や「GE 巨人の復活」がある。