大型買収によってBI(ビジネスインテリジェンス)分野で勝負に出た米グーグルと米セールスフォース・ドットコムだが、買収先の選択には両社の個性が色濃く出た。グーグルが26億ドル(約2800億円)で買収する米ルッカーと、セールスフォースが157億ドル(約1兆7000億円)で買収する米タブローソフトウエアの違いを分析しよう。

 グーグルがBIツールの「Looker」を販売するルッカーの買収で合意したと発表したのは2019年6月6日(米国時間)。そのわずか4日後の6月10日にセールスフォースが「Tableau」を提供するタブローの買収で合意したと発表した。ライバル関係にある大手クラウド事業者が同じ分野のベンダーの大型買収をほぼ同時に発表したのだから、IT業界の注目を大いに集めた。

 セールスフォースが買収したタブローはニューヨーク証券取引所に上場する大手のBIツールベンダーであり、日本での知名度も高い。それに対してルッカーは未上場のスタートアップで日本市場にも参入したばかり。市場シェアや知名度を考えると「タブロー買収でセールスフォースに競り負けたグーグルがやむなくルッカーを買収した」ように見えるかもしれない。

 しかしLookerとTableauの技術をよく調べると「グーグルにはLookerが向いている」し「セールスフォースにはTableauが向いている」と思えてくる。どちらも「エンドユーザーにとって使い勝手の良いGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)ベースのセルフサービス型BIツール」であることは共通するが、データを分析するシステムのアーキテクチャーが異なる。

データを取り込むか否か

 Tableauは分析用データをDB(データベース)やDWH(データウエアハウス)からパソコン上のメモリーやサーバーのインメモリーDBへと取り込み、データをインメモリー処理することでアドホック(逐次)クエリーを高速に実行する。

 それに対してLookerはデータ分析の際に分析用データをDBやDWHから取り込まない。分析用クエリーをDBやDWHに対して発行するだけで、分析処理そのものはDBやDWH上で実行する。Lookerが備える可視化ツールはその結果を表示するだけだ。

 ルッカーがビジネスを始めたのは2013年。その時点で市場には既にグーグルの「BigQuery」や米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の「Amazon Redshift」といった高速かつ安価なクラウド型DWHが存在した。高速なDWHを使えばインメモリーDBを別途用意する必要はない。そういう発想でLookerは作られている。

 つまりグーグルにとってLookerは相性が良い。これまでもLookerのユーザーが増えれば、BigQueryのユーザーも増えていた。それにBigQueryを有するグーグルとしては、今さら分析用インメモリーDB技術を買収によって手に入れる必要は無い。

 Lookerは接続先DB/DWHの切り替えも容易だ。ユーザーはLookerの分析クエリーを「LookML」という独自言語で記述、Lookerの「SQLジェネレーター」が50種類以上のDB/DWHで実行できるSQLクエリーを生成する仕組みになっている。つまりグーグルとしてはLookerを「BigQueryへの移行ツール」として活用できる。

 グーグルにとってはタブローが抱える有力なエンタープライズ顧客は魅力的だっただろう。しかしオラクルからグーグルに転じ、2019年1月から「Google Cloud」事業をCEOとして率いるトーマス・クリアン氏は、最初の大型買収としてルッカーを選んだ。その選択は吉と出るか。クリアン氏のお手並み拝見と言ったところだろう。

中田 敦(なかだ・あつし)
中田 敦(なかだ・あつし) 日経xTECH/日経コンピュータ副編集長。1998年日経BP入社。2015年4月から19年3月までシリコンバレー支局長。著書に「クラウド大全」(共著)や「GE 巨人の復活」がある。