全1557文字
PR
4/1朝まで
どなたでも有料記事が読み放題「無料開放デー」開催中!

 米国防総省が大型のクラウド契約を米マイクロソフトと締結し、最有力だった米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が敗退したことが話題を呼んでいる。クラウド間の技術格差がなくなったことの象徴だと見なせるためだ。

 国防総省は2019年10月25日(米国時間)に「エンタープライズ汎用クラウド(Enterprise General-Purpose Cloud)」の契約をマイクロソフトと締結したと発表した。通称「JEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure)」として知られる大型クラウド調達だ。国防総省は省内システムの80%をJEDIに移行する考えだという。

 JEDIに関してマイクロソフトと結んだ基本契約は2年間で、同省が支払うと保証した金額は100万ドル(約1億円)にすぎない。同省内のユーザーは個別の判断でJEDIを利用する。利用金額について同省は「2年間で2億1000万ドル(約230億円)」と見積もる。これだけでは「大型契約」とは言いがたいが、実際にはもっと大規模になるようだ。米報道によれば契約期間は10年以上、調達規模は最大100億ドル(1兆900億円)と見込まれている。

 国防総省がJEDIの調達プロセスを始めたのは2017年10月。下馬評ではAWSが最有力だった。AWSは2013年にCIA(米中央情報局)から6億ドル(約600億円)のクラウド契約を受注しているためだ。しかもCIAとの契約は当初、CIAの中にAWSのソフトウエアを使ってプライベートクラウドを構築するものだったが、AWSはその後、プライベートクラウドをAWSのパブリッククラウドに「巻き取る」のにも成功している。

 CIAによる2013年のAWS調達は、AWSの技術力が競合を引き離していると世に知らしめた点で画期的な「事件」だった。CIAの入札にはAWSに加えて米IBM、マイクロソフト、米AT&Tなど5社が参加し、2012年の時点でCIAはAWSを選択した。それを不服としたIBMが米政府監査院(GAO)に抗議した結果、CIAによるシステム調達の詳細が明らかになり、CIAがAWSを技術的に高く評価していたことが明るみに出た。

 CIAによる2012年の選考では1次審査の時点でAWSとIBM以外の事業者が脱落した。CIAによる最終審査でAWSがIBMを大きく上回った点が、システムの負荷に応じてサーバーの台数を増減する「オートスケーリング」の有無だった。2012年当時のクラウドには技術格差が存在したわけだ。

政治力よりも技術力

 それから7年を経た今回、国防総省がAWSではなくマイクロソフトを選んだ背景には、トランプ米大統領が米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)を敵視していることがあるなどと報道されている。ベゾスCEOはトランプ大統領を厳しく批判する米有力紙「Washington Post」のオーナーを務めている。

 しかしどれだけ政治的な問題があったとしても、2012年のようにAWSに圧倒的な技術面での優位性があったなら、AWSが負けることはなかっただろう。入札にはIBMと米オラクルも参加を目指したが、入札要件を満たしたのはAWSとマイクロソフトの2社だけだった。オラクルのサフラ・カッツCEOはトランプ大統領と親しいことで知られているが、さすがに政治力で政府調達は動かなかった。

 2012年のCIAによるクラウド調達はAWSの技術力に「お墨付き」を与える結果になった。それに対して2019年の国防総省によるクラウド調達はクラウド事業者間の技術格差が無くなっていることを世に知らしめた。クラウドを巡る事業者間の競争がこれからさらに激化するのは間違いない。

中田 敦(なかだ・あつし)
日経xTECH/日経コンピュータ副編集長
中田 敦(なかだ・あつし) 1998年日経BP入社。2015年4月から19年3月までシリコンバレー支局長。著書に「クラウド大全」(共著)や「GE 巨人の復活」がある。