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 今の量子コンピューターは量子ビットの誤り訂正ができない不完全な存在である。では完全な量子コンピューターはいつごろ実現できそうか。報道では20~30年後という見通しが一般的だが、米グーグルやスタートアップなどは5~10年で実現できるという強気の姿勢を見せている。

 今後10年で実用的な誤り耐性量子コンピューターを開発する――。グーグルは2020年12月8~10日(米国時間)に開催された量子コンピューターのイベント「Q2B」で量子コンピューターの開発ロードマップを説明した。

 グーグルは2019年秋に量子ビットを54個搭載する「Sycamore(シカモア)」を使って、既存のコンピューターでは到達し得ない能力を持つことを示す「量子超越性」を実証した。しかしSycamoreは量子ビットの数が少なく誤り訂正ができない「NISQ(ノイズがありスケールしない量子コンピューター)」と呼ばれる存在だ。グーグルは、NISQの有用な使い道を探すと同時に、量子計算に欠かせない量子ビットの誤り訂正が可能なハードウエアの開発を進めている。

誤り訂正の実現時期は「2029年」

 誤り訂正が可能な量子コンピューターは「万能(ユニバーサル)量子コンピューター」や「誤り耐性(フォールトトレラント)量子コンピューター」などと呼ばれる。グーグルはこの実現時期について「2029年」というロードマップを立てている。

 量子ビットの誤り訂正をできるようにするには、量子ビットのエラー率を0.001%未満に抑えたうえで、100万個の量子ビットをハードウエアに実装する必要があるという。グーグルは超電導方式の量子ビットを採用しているため、量子ビットは絶対零度に近い超低温の状態で稼働する必要がある。現在のSycamoreは量子ビットを冷やすために、直径1メートル程度の円筒形の希釈冷凍機を使っている。

 100万個の量子ビットを搭載するハードウエアにおいては、人間の身長の4~5倍の直径がある巨大な希釈冷凍機を使う計画だ。冷凍機の中は100個のタイル状のモジュールに分割してあり、各モジュールは量子ビットを1万個搭載し、相互に接続してある。グーグルでハードウエア計測学担当量子リード(Quantum Lead: Hardware Metrology)を務めるユー・チェン氏はQ2Bの講演で、グーグルが独自の冷凍機を開発していると明かした。

 完全な量子コンピューターの実現時期については、グーグルよりもさらに強気の姿勢を打ち出すスタートアップもある。イオントラップ方式の量子コンピューターを開発する米イオンQはQ2Bで、誤り訂正ができる量子ビットの実現時期について2021~2023年という見通しを示したうえで、既存のコンピューターでは達成し得ない性能を有する誤り耐性量子コンピューターを2025年までに実現するとした。

 大手コンサルティング会社の米ボストン・コンサルティング・グループの予測によれば、誤り耐性量子コンピューターの実現によって、250億~500億ドルの経済的なインパクトが発生するという。新たに生み出される巨大市場を巡って、グーグルを含めメーカーの鼻息は相当荒くなっている。

 その一方で、NISQの有用な使い道が見つからなかったり、誤り耐性量子コンピューターがなかなか実現できなかったりした場合に、期待がそがれ「量子コンピューター冬の時代」が訪れる恐れもある。Q2Bでは量子コンピューター分野のご意見番、米カリフォルニア工科大学のジョン・プレスキル教授がそのような見方を示した。

 量子コンピューターはITの主役に躍り出られるのか。今後の10年間は楽しみな時期になりそうだ。

中田 敦(なかだ・あつし)
日経クロステック/日経コンピュータ副編集長
中田 敦(なかだ・あつし) 1998年日経BP入社。2015年4月から19年3月までシリコンバレー支局長。著書に「クラウド大全」(共著)や「GE 巨人の復活」がある。