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 このコラム連載は、私の日本経済新聞社への出向に伴い、2020年春に休止した。その後、日経BPに戻ってきた2021年秋に再開し、今に至っている。便宜上、出向までをコラム1期、出向からの復帰後をコラム2期と呼ぶことにしよう。

 私の率直な感覚では、Web上ではコラム2期よりもコラム1期のほうが読まれていた気がする。もちろん、アクセス数が高ければいいというものではない。最も重視すべきは、読者の満足度だ。とはいえ、どうしてもアクセス数は気になってしまう。

 アクセス数の減少に一番影響していそうな原因には心当たりがある。コラムのタイトルであまりあおらなくなったことだ。実は、タイトルのあおりは意図的に減らしている。きっかけは、私が以前書いた「Pythonはコードが書きやすい?ご冗談でしょう」というWebのコラムだ。

 このときのコラムの内容をざっくり要約すると「Pythonには細かい注意点はあるものの、とても優れたプログラミング言語である」ということだ。少なくとも私としてはそのつもりでこのコラムを書いた。

 日経新聞から帰ってきた直後くらいの時期に、このコラムのブックマークコメントを何かの拍子で見てしまった。コメントはすべて「価値のない記事だ」といった否定的な意見だった。肯定的なコメントは皆無だ。

 その理由は、あおりタイトルと記事の内容が全く合っていなかったためである。このコラムはかなりのアクセス数を稼いだと記憶している。しかし、たとえ多くの人に読まれたとしても、読んだ人を不快にするコラムにどれほどの意味があるのか。

 数年前から、SDGs(持続可能な開発目標)や企業の社会的意義に焦点を当てたESG投資が注目されている。いずれもキーワードは「持続可能性」だ。無理に目先の利益を追うのではなく、長期的な価値を追求することに重点を置く考え方である。

 この連載も、「アクセス数が稼げるなら嘘に近い釣りタイトルでいい」と焼き畑農業的な考え方をしていては、いつか行き詰まるのではないかと考えるようになった。

AIでタイトルの謎に迫る

 「きちんとした内容の記事であれば、釣りタイトルでなくても広く読まれるはずだ」と考える人は多いだろう。確かに、刺激的なタイトルやテーマでなくても優れた内容で広く読まれる記事は世の中に存在する。

 とはいえ書いた記事がほとんど読まれないと、心がすさんでくる。単に記事のテーマや内容が悪かっただけかもしれないが、「釣りタイトルにすればもっと読まれるのに」という黒い心が頭をもたげてくる。

 これはWeb記事が持つ構造的な問題だ。読者が記事の内容を推し量る材料が事実上、リンクに示されるタイトルしかない。私の肌感覚では、記事のアクセス数はほぼ100%タイトルに依存するといっていい。ただし、「刺激的なタイトルにしさえすればいい」というわけでもない。「こんな地味なテーマの記事が読まれるのだろうか」と思って書いた記事が、意外によく読まれるということもまれにある。

 こうしたタイトルの謎を解く鍵になると個人的に思っているのが人工知能(AI)だ。BERTやGPT-2/3といった最近の自然言語処理モデルは、どんな単語が使われているかだけでなく、文脈そのものを理解する。

 BERTやGPT-2は、日本語で事前学習したモデルもいくつか公開されている。それらを使えば、どんなタイトルの記事がどれだけ読まれるかを高い精度で予測できるのではないか。そう考えて少しわくわくしている。

大森 敏行(おおもり・としゆき)
大森 敏行(おおもり・としゆき) 1991年日経BP入社。主にソフトウエア開発やネットワーク技術に関する記事を執筆。日経バイト、日経コンピュータ、日経エレクトロニクスなどを経て、現在は日経クロステックシニアエディター。