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ITを活用した経営基盤強化へ、内なる改革にも着手した。情報システム自体に加え、運営の仕組みや組織、さらには企業文化を一体で見直す。100年超の歴史が生み出す「重力」を振り切り、改革を断行できるか。

 「社内の業務システムは組織や商習慣、業務プロセス、人のマインドセットなどを全て反映している。それらに手をつけず、システムだけをきれいにすることは絶対にできない」。パナソニック ホールディングス(HD)でグループCIO(最高情報責任者)を務める玉置肇執行役員はこう力を込める。

パナソニック ホールディングスのグループCIOを務める玉置肇執行役員(写真:陶山 勉)
パナソニック ホールディングスのグループCIOを務める玉置肇執行役員(写真:陶山 勉)
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 パナソニックHD(当時はパナソニック)は2021年、「PX(パナソニックトランスフォーメーション)」を始動した。アクサ生命保険からパナソニックに転じた玉置執行役員を中心に取りまとめたデジタル変革プロジェクトだ。

PXを3階層で推進

 冒頭の玉置執行役員の言葉を象徴するように、パナソニックHDはPXを「IT」「オペレーティング・モデル」「カルチャー(企業文化)」の3階層で推進している。

図 パナソニックグループのデジタル変革プロジェクト「PX」の概要
図 パナソニックグループのデジタル変革プロジェクト「PX」の概要
企業文化から現場の業務まで(出所:パナソニック ホールディングスの資料を基に日経コンピュータ作成。社内の事業運営面の改革を抜粋)
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 ITの変革に関しては、アプリケーション、データ、インフラ、SCM(サプライチェーン管理)をそれぞれ見直す。アプリケーションについては、個別最適で構築された約1200のレガシーシステムを整理・統合する。API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を経由し、事業部門をまたいでデータをやり取りしやすい仕組みも整える。

図 PX活動におけるITの変革
図 PX活動におけるITの変革
データとクラウドを生かせる環境を整備(出所:パナソニック ホールディングスの資料を基に日経コンピュータ作成)
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 玉置執行役員はこうした変革を「PX1.0」と位置付け、2年間で終わらせる計画だ。「PX1.0は耐震補強工事で、本当のDX(デジタルトランスフォーメーション)をするための準備期間だ」(玉置執行役員)。2023年以降に始まる「PX2.0」では、総額8600億円を投じて買収した米ブルーヨンダーのサービスを活用してSCMの水準を引き上げたり、ビジネスモデルをサブスクリプション型に切り替えたりする取り組みを想定する。

 ITと表裏一体の関係にあるオペレーティング・モデルとは、情報システムの開発や運用に関する組織構造やITサービス提供の仕組み、ITベンダーとの関係やコスト構造を指す。同モデルの変革へ、最高意思決定機関として「CIOフォーラム」を立ち上げてグループ全体で戦略をすり合わせたり、ITベンダーと戦略的な関係を構築したりする。それぞれの事業部門が個別にソフトウエアなどを調達するやり方を改め、集中契約・集中購買を徹底することで、「パナソニックグループのスケールを経営の競争力に結び付けていく」(同)。

図 PXにおけるオペレーティング・モデルの変革
図 PXにおけるオペレーティング・モデルの変革
ベンダーとの関係にもメスを入れる
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