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消費者のプライバシー保護に向け、パーソナルデータの取り扱いを規制する法整備が加速している。デジタルサービスを巡る問題の象徴とされたネット広告業界を「透明化」する規制が浮上。改正個人情報保護法はWeb利用データの同意取得に規制を設けるが、企業の対応は進んでいない。

 日本のネット広告市場の「透明化」に向けて、法規制の強化が進む。政府は巨大IT企業を規制する法律にネット広告分野を追加し、取引内容を第三者が計測できるようにするなどネット広告のルール整備を進める方針だ。

 「デジタル市場を巡る様々な課題が凝縮されている」。政府のデジタル市場競争会議は2021年4月27日に公表した最終報告書案で、ネット広告市場をこう評した。競争激化や取引の不透明性、データ囲い込み、サービスや情報の質の低下、プライバシー軽視――。ネットやスマホを介したデジタルサービスがもたらす弊害をネット広告市場は全て含んでいるとして、同市場への規制を「デジタル市場のルール整備の在り方を考える試金石」と位置付けた。

 同会議は是正すべきネット広告業界の課題を5種類に整理した。中でもネット広告特有と言えるのが、広告の透明性に関する課題だ。

 具体的には、クリック数の水増しなどで広告収入を不正に得る「アドフラウド」、広告主のブランド価値を損ねかねない種類のサイトに広告を表示する「ブランドセーフティー」、広告が視聴者の目にとまらない「ビューアビリティー」などだ。広告の品質に関わる説明責任をネット広告事業者が十分に果たしていない、と同会議は指摘する。

 是正策の実行に向け、政府は2021年2月1日施行の「透明化法(特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律)」に対し、今後ネット広告分野を追加する方針だ。同法は、数あるネットサービス事業者の中でも特に影響力が強く、是正すべき事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」と指定し、規制の対象にしている。事業を監査し、独占禁止法の恐れがあれば対処を求める。

 同法に基づいてルール整備を進めるほか、電気通信事業法など関連法を厳格に運用するとしている。ネット広告分野では、米グーグルと米フェイスブック、日本のヤフーが規制対象の事業者に指定されるとみられる。

消費者の不利益、見過ごせず

 「EC(電子商取引)サイト、アプリストアに続く第3の分野として、ネット広告分野に対し、透明化法に基づいて同様に(国が大枠を示し、詳細なルールは企業がつくる)共同規制を敷くのが適切と判断した。第3だから優先順位が3番目というわけではなく、むしろ本命中の本命だ」。こう語るのは、デジタル市場競争会議ワーキンググループの座長を務める京都大学大学院経済学研究科の依田高典教授だ。

 依田教授の指摘は「ネット広告市場の複雑さや市場規模の大きさが、市場の公正さや透明性を損ねる一因になっている」というもの。同市場は1社が広告の需要側と供給側の両方を兼ねることがある「両面市場」でもあり、利用者が増えるほどさらなる利用者を呼び込むという「ネットワーク効果」が働きやすい。結果として大手の寡占化が進みやすく「潜在的に市場がゆがめられる恐れがある」(依田教授)。

 依田教授は、不公正な市場環境は結果的に消費者の不利益になると警告する。「消費者は無料コンテンツの美名に踊らされて、個人の情報を渡して不愉快な広告を見せられ、不要なものを購入させられている可能性がある。デジタル広告のオークションの仕組みもブラックボックス化しており、不利益は最終的には国民、消費者に及ぶ。ワーキンググループの座長としても行動経済学の専門家としても看過できない」。

図 ネット広告業界の問題点
図 ネット広告業界の問題点
複雑な業界構造が消費者の不利益に
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