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中国などでのオフショア開発が円安によるコスト増に直面している。国内回帰を図ろうにも、日本はIT人材不足が深刻で難しい。オフショア頼みが続き、一部で価格転嫁が始まりそうだ。

 2022年3月からの急激な円安が、国内外のIT人材の価格競争力に大きな影響を与えている。システムの設計やコーディング(実装)を担うシステムエンジニア(SE)の賃金が、日本と海外で急速に接近しているからだ。中国の北京や上海を拠点にするSEの賃金は、関係者の話を総合すると、円安が進んだ2022年5~6月の時点で日本の大都市圏を上回る水準に達した。

 円安が進む前から、日本とオフショア先の新興国でSE賃金の格差は縮小し続けていた。「日中逆転」のようなオフショア開発の価格競争力の低下は、10年以上も前からいずれ来ると見込まれていた。経済成長でインフレが進むアジア諸国などで、SEの賃金上昇が5%台かそれ以上の高水準で続いているからだ。

北京・上海は日本より高い

 日中でSE賃金が逆転したという事実は、複数の関係者が指摘する。

 人事戦略コンサルティングを手掛けるマーサージャパンの調査によれば、2021年におけるSE職の年間賃金は日本で472万~742万円に分布する。対象は実務経験が10年までの、ネットワークや運用などを含む様々な分野のITエンジニア職の平均である。経験年数で3段階に分けると、経験3年以内の初級SEが472万円、同3~5年の中級SEが563万円、同5~10年の上級SEが742万円だった。

 これに対して同時期の中国・上海での賃金は318万~687万円、北京では318万~636万円と、日本の7割弱~9割強の水準だった。採用した2021年上期の平均為替レートは1ドルが106.4円、1元が16.4円である。

 しかし2022年6月24日時点で、1元が20.1円と円が約2割下落した。このレートで賃金を算定すると、上級SEの場合、北京で779万円、上海で842万円と日本を上回る。中級SEも日本の9割以上に賃金水準が接近する。2022年下期の平均為替レートはこの水準が定着する可能性がある。

 20の国と地域にオフショア開発拠点を持つソフト開発のモンスターラボホールディングス(HD)によれば、日本と北京・上海の賃金格差は急激な円安が進む前の時点でほぼ消滅していたという。鮄川(いながわ)宏樹社長は、同社グループが現地で主に雇用する開発系SEの賃金や現地での市況が、2022年初めには日本とほぼ同水準となっていたと証言する。円安が進んだ同年6月時点だと「平均的なスキルを持つSEの賃金は、北京や上海のほうが日本より2割ほど高い」(鮄川社長)。

 中国の地方都市やベトナム、インドなどの新興国も、かつての「日本の2~4割」という賃金水準は望めなくなってきた。マーサージャパンの調査によると、2021年上期の為替レートで上級SEの賃金は大連が437万円と日本の6割に達し、円安後は7割超まで上昇する。ベトナムも上級SEの賃金が円安前の265万円から335万円に上がり、45%の水準まで高まった。モンスターラボHDの鮄川社長も「ベトナムのSEの賃金は、現在の為替だと日本の5~6割に達した」と話す。

図 主要なオフショア先と日本のシステムエンジニア(SE)の賃金
図 主要なオフショア先と日本のシステムエンジニア(SE)の賃金
SEの賃金が逆転(出所:マーサージャパンの調査データを基に日経コンピュータ作成)
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