電子契約の導入はテレワークに役立つだけではない。野村ホールディングスはガバナンス(企業統治)強化につなげた。実効性の高い電子契約導入のポイントを解説する。
「契約の締結頻度が高い取引先に対して重点的に、紙の契約書から電子契約に切り替えてもらう活動を続けている」。こう話すのは野村ホールディングス(HD)の大賀顕経費購買戦略部ヴァイスプレジデントだ。
野村HDは2017年に日鉄ソリューションズ(NSSOL)の電子契約サービスを導入。それから約3年で、主にITベンダーと結ぶ開発や保守に関わる契約書を中心に電子署名を使った電子契約を1万3000件ほど締結したという。
従来は各部署が紙の契約書を個別に管理していたため、類似の取引で契約条件や購買単価に差があるのか全容を把握しにくかった。電子契約によって、全社で契約書を集約・管理し契約条件やコストを見直す体制を整えた。
電子契約の導入までに実に約1年半をかけたという。電子契約の導入に際して「紙への押印と同等の証拠力があるのか」「訴訟や調停など契約内容に争いが生じた場合に対応できるのか」といった法制度の理解や、契約書の文言や社内規定、運用の見直しに時間がかかったからだ。
総務や購買といった部門ごとに異なる契約の業務フローを洗い出した。さらに契約書の文言を見直したうえに、電子契約の文言に「電子契約ファイルが原本で印刷物は写しである」と明記した。これにより紙の契約書で必要だった印紙税の負担をなくした。
野村HDは契約書を電子化するにとどまらず契約に関わる業務を改革してデジタル化した。なかでも大賀ヴァイスプレジデントが重要だと指摘するのは、契約書をデータとして集約し一元管理することだ。締結日などの情報を付加したうえで契約書を一元管理することにより、契約の自動更新や解約通知の有無などの状況を簡単に把握できる。大賀ヴァイスプレジデントは「取引先名や契約締結日といった細かい情報を設定したことで、検索しやすい有用なデータとなった」と効果を語る。